宇野ゆうかの備忘録

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なぜ(特に男性は)ファッションに失敗する人が多いのか・前編 ~着物との比較から考える

前回記事『ダサい服はなぜダサいのか。また、人はなぜ「ダサい」に過剰反応してしまうのか。』を書く上で、着物と洋服の違いについて考えていたところ、(特に男性が)ファッションに取り組もうとして失敗し挫折する要因の一つが見えてきた気がするので、書き留めておこうと思う。

 

前回記事では、着物と洋服のおしゃれの基準の違いとして、着物は服の形は同じようなもので、色と柄でバリエーションを出す文化があるのに対し、洋服は服の形のバリエーションが多く、着た時のシルエットを重視するということを書いた。

 

ここまで散々「洋服はシルエット」と言っておいてなんだけど、私は、実は、着物もまずシルエットが大事な衣服なんじゃないかと思う。いくら長着や帯や半衿等がおしゃれな組み合わせであっても、着付けがイケてなかったら、決してサマにならないからだ。

日本で育って、着物を見慣れている人にとっては、着物を見慣れていない外国人が自分で着てみた姿は、なんとなくおかしく感じる。しかし、着物を見慣れていない人にとっては、着付けの違いはよくわからないかもしれない。

つまり、着物を見慣れている人は、その外国人の着付けが変だと思う程度には、着物のファッションリテラシーがあるということだ。

 

着物は、「着付ける」ということによって、着る人が自分でシルエットを作る服で、洋服は、(ネクタイを結んだり、裾を入れたり入れなかったり、自分でシルエットを作る部分もあるけれど、)大部分は、服を選んで買う時点で、シルエットを作る服なのだと、私は考えている。

今でこそ、既製品の中から自分に合うサイズのものを選び取るのが、普通の洋服の買い方だけど、昔は、身体の寸法を測って、その人の身体のサイズに合わせて仕立てるのが、一般的な洋服の作り方だったのだから。

 

思うに、苦手な人が取り掛かっておしゃれになるには、実は着物より洋服のほうが難しいのではないだろうか。

着物は、既に日常的に着る人が減って久しく、着たいが着方がわからないという人が多い。そのため、いちから着物の着方を解説した本の需要があり、そういう本は沢山出ている。「着物が着たい」と思った人は、まず一般書籍コーナーに行って、着物の着方についての本を探すところから始めるだろう。着物のファッション誌ではなく。*1

そして、本を読んでもわからなければ、誰かに教わろうとするだろう。巷には着物教室もあるのだし。

 

一方、おしゃれが苦手な人が、洋服のおしゃれをしようとすると、大抵、まずファッション誌を読むことから初めてしまう。「おしゃれといえばファッション誌」と思い込んでいるため、一般書籍コーナーに行こうという発想ができない。そもそも、一般書籍のファッション解説本の存在自体知らない。

そして、独学で頑張ろうとしてしまう。(ファッション好きな友達がいれば、その人に聞くかもしれないが、こういう人の周りには、ファッショナブルな人がいないことが多い。)ファッションアドバイスのプロに頼もうという発想がない。そもそもそういう人の存在自体を知らないから。

 

つまり、着物に取り組もうとする人は、「着物の基本的なことを解説した本を読み、人に聞く」という工程を踏む人が多いのに対し、洋服のおしゃれをしようとする人は、「服の流行を紹介するファッション誌を読み、独学でやろうとする」という工程を踏む人が多いのだと思う。どちらが上手くいきそうかは、明らかだろう。

 

これは、着物の場合、服の着方についての基本的な本が存在しているということと、初心者に着付けを教える仕事をしている人の存在が、広く世間に知られているからだろう。その分、着物ファッション誌の存在はあまり知られていない。

一方、洋服はというと、特にメンズファッションについては、今でこそMB氏をはじめ様々な本が出ているが、2000年代以前は、特にカジュアル方面はほとんどないも同然だったし、*2「パーソナルスタイリスト」や「イメージコンサルタント」といった、洋服のファッションアドバイスをするプロの存在も、ファッション感度が高い人は知っているが、低い人は知らない状態だと思う。そして、ファッション誌の存在感がありすぎる。

つまり、洋服のおしゃれがしたい人にとっては、着物に比べて、上達しやすい手順が踏みにくい状態なのだ。

 

これは、普段、みんなが日常的に着ている衣服だからこそ、起こることなのかもしれない。誰もが着物を着ていた時代、わざわざ着物の着方から解説した本はなかったのではないだろうか。一方、戦前の日本では、洋服の着方に関する本は需要があったようだ。

実のところ、私たちは、普段、日常的に洋服を着てはいるが、案外、洋服のことをよく知らないのだと思う。日本人が洋服を着始めたのは、明治時代からだったが、一般庶民に至るまで、誰もが洋服を着るようになったのは、まだ数十年のことだ。

 

“――月曜から金曜までスーツを着ている男性の中には、何十年もスーツ以外の服を全然買ってこなかったという人も多い。おじさんが土日に着る私服がひどいという話はよく聞きます。

MB:男性は結構危機感を持っていますよ。僕がやっているファッション指南のメルマガ読者は、当初から上の年代を狙っていたんですが、蓋を開けてみると思った以上に多かった。65歳で定年を迎えて、スーツを脱いだ瞬間に何着ていいかわかんなくなるんですよ。

米澤:65歳か。もうちょっと早く気付けなかったんですかね。

MB:いやあ、男は毎日スーツを着ているうちは、どうでもいいやって思っちゃうんですよ。だけど、いざ定年して第二の人生となった時、自分の服装ってこれでいいのかな?って思うけど、そんなにお金もかけられない。だからユニクロでかっこよくなる方法を教えてくださいって、僕のところに駆け込み寺のようにやってくるんです。”

 

“MB:カジュアルにしなきゃいけないのに、どうやってカジュアルにしていいか、わからないという男性は多いです。結局、男はファッションに対するリテラシーが培われていないんですよ。女の子はお母さんから服の良し悪しや着方を教えてもらうけど、我々男は父親から教えてもらったことがない。だからリテラシーが存在しない。”

 

インスタとユニクロで日本人の「おしゃれ」が変わった(米澤 泉,MB) | 現代ビジネス | 講談社(1/7) 

これは、みんなが洋服を着るようになってまだ数十年だから、起こっている現象なのかもしれない。もし誰もが着物を着ていた時代だったら、隠居した途端、「羽織袴を脱いだら何着ていいかわからなくなった」と言ってアドバイスを求める男性はいただろうか? (落語になりそうな話だな……)

「浴衣は着れるけど、フォーマルな着物はわからない」という人はよくいるが、「フォーマルな着物はわかるけど、浴衣や着流しはわからない」という人は、あまりいないだろう。

 

クールビズが啓発され出した頃、いつものスーツのネクタイを外しただけの姿になってしまう年配男性が多かったが、上下揃いのスーツスタイルはネクタイありきのものなので、ネクタイを外したスタイルにする場合は、ジャケットやパンツ等もカジュアル用のものにしないとおかしい。

着物にも、長着や帯、半衿や履物等の格の違いで、合う組み合わせ合わない組み合わせというのはある。多くの人は、着物に取り組もうとする場合、着付け方と共に、まずここから知ろうとするだろう。本来であれば、洋服についても、まず知るべきことは、洋服のそれぞれのアイテムの格を知り、合う組み合わせ合わない組み合わせと、どのシーンでどういう格好をして行くのが相応しいのかということだと思う。

 

上記引用部分に、「我々男は父親から(服の着方を)教えてもらったことがない」という話が出てくるが、父親世代は、洋服において、合う組み合わせ合わない組み合わせという段階からして、リテラシーがない人が多いということなのだろう。これでは確かに、息子に服の着方を教えようがない。

これがもし、着物が日常的に着られていた時代だったらどうだっただろう。上の世代の男性は、「男が見た目にこだわるなんて女々しい」と言われて育った人が多いが、こういった着物の組み合わせについては、おしゃれ以前の問題として、常識的なことだったのではないだろうか。

洋服において、ここの段階を知らないまま、「男が見た目にこだわるなんて……」を適用してしまうと、「カジュアルがわからない」「スーツを脱いだ瞬間に何着ていいかわかんなくなる」ということになるのかもしれない。

これについては、戦中戦後の混乱の中で、一旦、明治時代から取り入れつつあった洋装の文化資本が途絶えた部分もあったのではないだろうか。

 

さて、今回は、男性がファッションに挑戦して失敗する理由として、着物との比較から考えた。もう一つの理由として、学校における服装指導にも要因があるのではないかと思うのだが、長くなったので後編に書くことにする。

 

 

なお、このエントリは、数年前に読んだこちらの記事が頭にあって書いた。

blog.gururimichi.com

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戦前の洋装を現代に着ている人たち。

togetter.com

 

 

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*1:KIMONO姫」などの着物ファッション誌を見たことがきっかけで、着物の世界に足を踏み入れる人もいるだろうけど。

*2:脱オタクファッションガイド」くらいだろうか。