婚活デート様式から考える、男と女で奢るか奢らないか問題
上の記事と、ついているブックマークコメントが、なかなか興味深かった。
結婚相談所のデート様式は、男性が店を選び、予約し、全額奢るということになっているらしい。一方、下の記事によると、大学生に対して「あなたはデート中の食事費用の支払いについて、どのようにすべきだと思いますか」という質問に対して、「男性が全額支払う」がダントツの最下位である(しかも女性のほうが少ない)。最も多いのは、女性では「自分が食べた分だけを支払う」、男性では「男性が多めに支払う」だ。
そして、30代の男女にも同様の傾向が見られるという。
ということは、結婚相談所のデート様式は、バブル時代以前のデート様式がモデルになっているのかなと思う。たとえ、イーブンな付き合いをしたがる傾向にある30代以下の男女であっても、結婚相談所においては、その様式に従っておいたほうが良いということになっているのだろう。
実際、上記の記事の中でも、「おつきあい」と「つきあい」の違いとして、こういうことが書かれている。
“社会学者の加藤秀俊先生は、人と人とのコミュニケーションについて論じる中で、「おつきあい」と「つきあい」を区別しています。
「おつきあい」とはお互いの共通点を発見し、その話題をめぐって会話を楽しむような関係です。恋人になる前のデートは、まさにこの「おつきあい」の段階だと言えます。好きな食べ物や趣味などの共通点を探し、同じところがたくさんあると「相性がいい」と喜び、一般的には、恋愛へと至る可能が高いと考えます。”
“「おつきあい」レベルの関係では、どれだけ楽しく会話をしていても、表面的な話題に終始しています。そのため、相手の男女観や金銭感覚が十分にはわかりません。だから、実際に目の前の女性がどう思っているかではなく、ステレオタイプの女性像に基づいて、男性側は「女性がしてほしい」と思っている行動を予想することになります。
これは女性側から見ても同じことで、ステレオタイプの男性像に基づいて、相手の気持ちを予想する必要があります。だから、男性には、「初めてのデートは全部おごれるぐらいのおカネを財布に入れていく」、女性には「財布を出して払う気があるフリをする」といった「無難なマナー」が推奨されるのです。”
「女は男におごってほしい」はほぼ"妄想"だ | 男性学・田中俊之のお悩み相談室 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
これは、確かに婚活の初デートに当てはめることができるだろう。
冒頭の結婚相談所のブログによると、以下のような質問をする男女は苦戦するとのこと。元の記事では「こじらせレベル2・当たり前のことを質問する」として、
「婚活服(スーツ)が苦手なんですけど、
どうしても着なきゃダメですか?」
「一人暮らしした方がいいですか?」
「痩せた方がいいですか?」
「タバコやめた方がいいですか?」
こういった質問が並んでいるのだが、このうち、
「初デートは男が奢らなきゃダメですか?こっちが2000円で相手が1500円とかはダメなんですか?」
「お見合いは男の奢りって相談所のルールで決まってるのに、払ってもらったお礼を言わなきゃいけないんですか?」
「お店は男が予約した方がいいですか?」
に関しては、他の質問と質が違っていると思う。これらは、見た目を整えるとか、コミュニケーション能力を上げるといった、男女双方に必要なことではなく、いわば「男尊女卑プレイ」なのである。*1
よって、 上記3つの質問に関しては、
予備校に例えたらこんな感じ?
「英単語を覚えるのが苦手なんですが、
覚えた方がいいですか?」
は、例えとしてはちょっと違うんじゃないかと思う。英単語を覚えるのに男女の違いはないから。
例えるなら、
- 「スカートはきたくないんですけど、パンツスーツで面接受けるのはダメですか?」
- 「ヒール靴嫌なんですけど、履いたほうがいいんですか?」
とかに近いと思う。
これらのことを嫌がるのは、全然おかしくないし、こじらせどころか、むしろ当たり前だと思う。「現状はこうやってたほうが合格率が高い」ということと「やるのが嫌なのは当たり前」は、何も矛盾なく両立することもある。
嫌だと思って当たり前。でも現状はこうだ。じゃあ、どうやって戦うか、ということなんじゃないかな。
とはいえ、まだまだ男性より女性のほうが平均賃金が低いという現実がある以上、学生以外は、完全に割り勘にしてしまうと、女性のほうが損な感じがしてしまうというのはあるよね。なので、男女の平均賃金の差から割り出したレートに基づいて、双方いくら出すのかを算出するのが、平等なのかもしれない。最も平等なのは、お互いの年収の差に基づいて算出することだろうけど(笑)。
一方で、特に男性は、あらかじめ店に予約を入れておくというテクニック自体は、身に付けておいて損はないとは思った。なぜなら、これは対女性デートテクニックだけでなく、広く対人おもてなしテクニックでもあるから。
これも、店を選ぶのは男女どっちでもいいと思うんだけど、なぜ「特に男性は」と書いたのかというと、女性は既にこれを身に付けている人が多いと思うから。私も、具体的にいつ身に付けたのかわからないけれど、こういう時、店の予約はする。適当な店を探して長時間ウロウロするはめになったら、自分が疲れるからだ。
健康で健常な成人男性は、人類の中で最も体力がある部類の人たちなわけで、そうであるからこそ、自分より体力が少なめの人をエスコートする技術を身に付けておいても良いと思う。例えば、お互いの両親を招いて食事会とか、そういう時、対女性デートテクニックは、対年配者おもてなしテクニックとして、そのまま応用できるだろうし。
上の記事に対して、「奢らないとモテない」「誰が『奢らなくてもいい女性』なのかわからないから、結局奢るしかない」という趣旨のブコメがちらほらついていたのを見て、「モテたい」という願望が薄い私は、「そんな女性とはどうせ合わないんだから、奢らないことで嫌われても構わんだろ」と思ってしまった。
ただ、「モテたい」という願望があったとしても、女性から嫌われることを恐れて奢るっていうのは、あんまりモテには繋がらない気がする。そもそも、奢る男性がモテるのは「自信があるから」であって、自信のない男性が、女性から嫌われるのを恐れて奢っていても、せいぜい「モテ」じゃなくて「カモ」にされるだけなのでは……
自信のある男性は「自分は女を選べる」と思っている。自信のない男性は「自分には女を選べない」と思っている。「奢る」という行為自体は同じでも、内容は全く違う。
ここで言う「女を選べる」っていうのは、モテるから彼女候補が沢山いるとか、そういう話だけではなくて、自分に合う相手、合わない相手を理解して、合う相手にコミュニケーションチャンネルを合わせられるということ。自信がない人は嫌われるのを恐れるから、合わない相手にコミュニケーションチャンネルを合わせてしまう。
一方、女性と会計をイーブンにする男性でも、適度に自信がある人は、彼女がいたりする。そういう男性は、彼女にしろ女友達にしろ、会計をイーブンにする女性たちと付き合っている。
ただ、そういう女性たちは、会計以外のところでもイーブンな付き合いを求めるだろうから、女性と対等に付き合えない男性は、女に貢がせられるモテ男でない限り、奢り続ける関係しか築けないかもしれない。
“自信ない女はモテない、カモられるだけ”
“じゃー「モテる」と「カモられる」の違いってなんなのよってことですが、端的にいえば「モテる」とは「相手をきちんと考えられる思いやりのある人に好かれる」ってことです。「カモられる」というのは「相手の欲望が中心で、こちらの痛みや思いなどは軽視する人に好かれる」ということ。”
“ぶっちゃけ、顔やスタイル、服装やらモテテクニックやら趣味なんて、どーでもいいんですよ。モテるかどうかってもう「自分のことを認めている、自分の望みをはっきり理解している=セルフコンフィデンスがあるかどうか」の一点勝負。”
これ、男女を入れ替えても、同じことが言えると思う。*2
“また別のメンバーは女性との関わりについて考えるワークで、女性と食事に行ったときのエピソードを紹介してくれた。会計の際、相手の女性が「自分の分は自分で払う」と言っているにもかかわらず、それを制して無理に全額おごったという。初めての食事に緊張した彼は、会計をどうしていいか分からずに焦り、深く考えることなく「男性が女性に奢るべき」という社会通念に従った。「もうそれ以外のことが考えられなくなってましたね」。
この関わりは、相手の女性を一段下にいる存在として位置づけるものであり、男女間の不平等な構造を無意識のうちに維持してしまっている。彼は女性の優位に立たなければならないという司令官の指示に従ったわけだが、その後彼女からの連絡は来なくなったという。彼は「相手も来たいという主体的な思いを持って一緒に食事をしたのに、その気持ちを考えてませんでした」と振り返っていた。”
「誰が『奢らなくてもいい女性』なのかわからないから、結局奢るしかない」と言う男性は、「奢らないと嫌われるかもしれないけど、奢って悪いことはないだろう」と考えているのだろうけど、そうとは限らないみたい。
とすると、若い世代ではもう実質時代遅れであるにも関わらず、婚活業界が「男が全額奢る」をルール化しているのは、男性側の「奢るべきか奢らざるべきか、どっちが正解なんだ?」問題を避けられる効果があるからなのかもしれない。
女性慣れしていない男性に、その場で「奢るべきか奢らざるべきか」の判断をさせるよりは、「男性が全額奢って下さい。そういうルールです」と言ったほうが、もしかしたら、男性にとって楽なのかもしれない。
だとしたら、婚活業界の「男が全額奢る」ルールは、女性慣れしていない男性の負担を減らすための負担額だと考えられるかも。
なお、奢られないと「大事にされていない」と感じる女性に関しては、まぁ、何が大事なのかは人それぞれだし、「お金をくれること」が自分にとって大事で、相手に求めることなら、その人にとっては、確かに「奢られない=大事にされていない」ということになるのだろう。
ただ、私自身の考えとしては、大事にされているかどうか、相手に自分を尊重しようという気があるかどうかは、メシを奢るかどうかよりも、セックスの時の態度を判定基準にしたほうが、より精度が高いとは思うけど。
あと、女が料理すると聞くや否や「じゃあ作って!」と言う男は、男が金持ちと聞くや否や「じゃあ奢って!」って言う女と一緒だと思う。