宇野ゆうかの備忘録

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松山市役所の身だしなみルールから~「きちんとした格好」をしたければ、校則的服装指導はやめよう!

news.yahoo.co.jp

 

愛媛県松山市役所の職員向け身だしなみルールが厳しすぎると話題になっている。私が元記事を一読してまず思ったことは、「よくいる、学校の服装指導的な価値観が、世間一般に通用する服装ルールだと勘違いしている人が作ったのかな」ということだ。

 

”愛媛・松山市役所に向かうと、中には職員向けに身だしなみルールが貼られていた。

「ミニスカートは不可。髪は意図的に染めることは不可。白髪染めは地毛の色で」など細かく指定されている。

物議を醸しているのは、「勤務時間中の身だしなみモデル」と題した規定。

ミニスカート不可など、赤で強調された禁止事項以外にも「結婚指輪以外の装飾品は身につけない」という気になるルールがある。”

 

葬式ですら、真珠の一粒イヤリングや一連ネックレスは良しとされているし、スーツを着る時に身に着けるタイバーやカフリンクスもアクセサリーなのだが……地毛を重んじてアクセサリーが基本的に全てNGというのは、ビジネスフォーマルやビジネスカジュアルのドレスコード的な基準から離れており、学校の服装指導を思い起こさせる。

個人的に気になるのは、ポロシャツについてはかなりの文章量で基準を設定しているのに、ベルトや靴下については特に言及がなく、靴についてはほんの2行であることだ。靴はけっこう大事なんだよ……ローファーを冠婚葬祭に履いてきてしまう男性は本当に多いんだ……!(学生さんの制服にローファーはOK)

この、やたら染髪やアクセサリーに厳しいわりには靴に無頓着というのも、学校服装指導的価値観の人っぽい。あと、「男性はスラックスが基本。」とあるが、ポロシャツの場合、下はチノパンでも良いのでは。

www.mistore.jp

 

私は、世の中には、大きく分けて二種類の服装ルールがあると考えている。1つは、その業界や企業で定められた「社内規則」のようなもの。もう1つは、冠婚葬祭の時など、社会的に広く通用する「ドレスコード」だ。

学校の校則に基づいた服装指導というのは、実は前者の「社内規則」的なものの仲間であって、その学校におけるローカルルールである。これは、例えば、スーパーやコンビニの店員がお揃いのエプロンや制服を身に着けたり、医師や看護師が白衣やナース服を着たりするようなものだ。世の中には様々な職業があるので、様々な服装のローカルルールがある。

一方、普段はそれぞれの服装で働いている人たちも、葬式となれば喪服を着てくるし、結婚式となれば慶事向けのフォーマルな服装で出席する。これが社会一般的なドレスコードだ。

 

よく学校では、校則に違反した服装をする生徒に対して「そんなんじゃ社会で通用しないぞ!」と言う教師がいるので、それを真に受けてしまう人は多い。だが、考えてみてほしい。私たちは、学校で冠婚葬祭における服装マナーを教わったりしただろうか?「葬式では、一連のネックレスはOKだけど、二連のネックレスはNGなんだよ」とか「スーツを着る時は、紐で結ぶタイプかモンクストラップの革靴を履いて、スネ毛が見えない長さの靴下をはくんだよ」とか教わったりしただろうか?ほとんどの人は教わっていないよね。

ということは、実は、学校で指導しているのは、その学校における服装のローカルルールであって、ドレスコードやスーツの着方を理解していれば、学生時代に服装違反をしていようがいまいが、社会で通用するということなのだ。逆に、このような「校則」的な服装指導と「ドレスコード」を混同してしまっている人は、ドレスコードやスーツの着方についてよく知らず、結果的に合っていない服装をしてしまっていることがよくある。

学校の校則的価値観は、学校を卒業したら一旦忘れてしまって、社会人として、ドレスコード的価値観を身に着けたほうが良いと思う。ついでに言うと、学生の間は化粧禁止なのに、社会人になったら化粧がマナーになるというのも、校則がローカルルールだからだろう。

 

また、松山市の服装ルールからは、「おしゃれは必要ない」「きちんとした服装=おしゃれではない」という価値観が見えるような印象を受けるが、「きちんとした服装=おしゃれではない」というのは、大きな誤解である。おそらく、これもまた、学校の服装指導的価値観によるものだろうが……

スーツをはじめとしたビジネスウェアも、否応なくその時代のファッションの影響を受けるものだ。全体的なシルエット、ゴージラインの高さやラペルの幅、パンツの太さや裾の長さ、ボタンの数などには、その時代の流行が見て取れる。もちろん、女性のビジネスウェアも同様である。

 

スーツ・スタイルの流行の変遷。

muuseo.com

 

学校の服装指導と社会一般のドレスコードを混同してしまっている人は、スーツを学生服の延長として考えているように思う。

私は、スーツは着物に近いものだと考えている。今日における着物が、日本の服飾の歴史の上に成り立っている衣服であるように、スーツもまた、西洋の服飾の歴史の上に成り立っているものである。たまたま歴史の上で「近代化=西洋化」ということになり、西洋の衣服が全世界的に一般化したので、現代の私たちは、いわば「西洋の着物」を着ることになったのだ。

 

実際、あらためてスーツの着方やドレスコードについて知るとなると、いちから着物の着方やアイテムの格とTPOに合わせた着方を学ぶくらいのことは必要になってくる。着物で「きちんとした格好」ができるようになるには、そういう学びが必要なように、洋服もそうだということだ。

本当に「きちんとした格好」をしたければ、ローカルルールである校則的服装価値観から脱してしまわなければならない。イヤリングやネックレス等のアクセサリーを身に着ける歴史がある洋服の文化においては、「きちんとした格好=アクセサリー禁止」ではない。オフィスに適したアクセサリーとそうでないアクセサリーがあるだけだ。*1

はっきり言って、ドレスコードは校則よりも難しい。大抵の学校は、学校指定の制服が用意されていて、これさえ守っていれば先生に怒られない「正解」が提示されている。自由があまりない分、特に考えなくて済む。一方、オフィスのドレスコードは、「この範囲でならOK。あとは自分で考えて揃えてね」というものだからだ。

 

ちなみに、どういう格好をしたらいいのかわからない人は、本を一冊読んで予習した上で、ビジネスウェアの専門店に行って、店員さんに職場の服装ルールを伝えて一式選んでもらえば良いと思う。ビジネスウェア以外のお店では、店員さんもよくわかっていないことがあるので注意。*2

 

さて、松山市に限らず、市役所職員の人たちの服装ルールについてだが、いち市民の意見としては、もし服装ルールを設けるなら、学校的価値観ではなく、ビジネスフォーマルまたはビジネスカジュアルのドレスコードを基準としたものにするのが良いと思う。

理由としては、職員さんたちは、とっくに高校を卒業した大人だから。そして、ドレスコードを基にして服装を考えるのは、少なくとも、学校的価値観に基づく服装ルールよりは、ずっと国際的に通用するからである。

元記事のニュース映像を見たところ、松山市の場合は、冬季は男性の場合ネクタイ着用、5月1日~10月31日はクールビズ期間でポロシャツ着用OKとのことなので、「冬季:ビジネスフォーマル、夏季:クールビズ期間(ビジネスカジュアル・ポロシャツOK)」としておけば良いのではないだろうか(今のご時世、一年中ビジネスカジュアルで良い気もするが……)。ルールを設けるにあたっては、スタイリストやイメージコンサルタントなど、服装のプロの助言を得ても良いかもしれない(マナー講師ではなく)。

 

欧米のドレスコード解説記事。

www.wexlerevents.com

外国人向けの日本のドレスコード解説記事。

www.realestate-tokyo.com

 

〔関連記事〕

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オフィスファッション、100年の歴史(女性版)。


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女子の学校制服、100年の歴史。


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*1:日本においては、簪など髪につけるアクセサリー文化があった。アクセサリーとしての帯留めは明治以降から。

*2:とりあえずスーツカンパニーあたりに行っておけば良いのでは。