宇野ゆうかの備忘録

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4℃(ヨンドシー)ハートネックレス炎上を振り返る~男性向けブランドから女性向けブランドへ

クリスマスの風物詩とも言われるジュエリーブランド4℃(ヨンドシー)の話題。前々から「男性が贈って、女性が嬉しくない」ハートネックレスが話題ではあったが、決定的だったのが、2020年に、友人関係の男性からCanal 4℃のハートネックレスを贈られた30歳女性が、Twitterで呟いた一件だっただろう。これは激しく炎上したので、当時、私も興味を持って記事を書いた。

yuhka-uno.hatenablog.com

 

今回、私が再び4℃について記事を書こうと思ったのは、4℃がマイナスイメージを払拭するべくリブランディングに挑んでいることと、この動画を見たからだ。おそらく、2023年、4℃が原宿にポップアップストア「匿名宝飾店」を出した時期のものだと思う。

特に10:35から見て欲しい。


www.youtube.com

これは鋭いと思った。いや女性だと「こういうことなんだろうな」と思ってる人は珍しくないだろうけど、男性でここに辿り着ける人は珍しい。まぁ、この方は企業コンサルタントだから、それが仕事なのだろうけど。

 

炎上のおさらい

件の30歳女性がプレゼントされたのは、Canal 4℃のハートネックレス。Canal 4℃は、4℃の妹ブランド的な位置づけで、10代~20代前半がターゲット層だ。「飲み誘われたら行くくらいの友人」の男性から、オルゴールの箱つきでプレゼントされたとのこと。

実は、私は当時Canal 4℃というブランドラインを知らなかったのだが、そんな私でも、一目見て「あー……これは大多数の30歳女性には好まれないデザインや……」と思ってしまった。

そもそも、彼氏彼女の間柄ではないのだから、アクセサリーはむしろ贈らないほうが良いだろう。百貨店のプチギフトコーナーにある2000~3000円くらいの品物でも良かったかもしれない。友人関係のアラサー女性へのプレゼントには、ティファニーよりティファールだ。*1

 

当時ついていたレス。

 

当時の炎上は、こういった詳細な部分が省かれて、「男から4℃のネックレスを贈られた女がSNSに晒して炎上したらしい」みたいな、非常にざっくりとした認識で人々に記憶されることになっていった。この一件は、ひろゆきが言及したことによって、一気に広まった面があったと思う。

getnews.jp

 

ちなみに、贈った男性は現在結婚していて、贈られた女性とは今でも友人関係が続いているとのこと。

 

4℃はどういうブランドだったのか?

私は4℃の全盛期を知らない。私の4℃の端的なイメージは「ダサいと評判のハートネックレスが有名なブランド」だった。一般的には、「一昔前のブランド」「大学生男子が彼女にプレゼントするためにバイト頑張って買う」というイメージで語られることが多いようだ。

 

4℃は、1972年原宿でデビューした。当初は女性が自分のために買うジュエリーだったが、バブル期に、男性が女性にジュエリーをプレゼントする文化が広まって、4℃もギフト用に購入する男性客向けに、売り上げを伸ばしていったという。かつては若い世代に支持されていて、「安くて品質が高くて、かわいい」というイメージで、バブル崩壊後から10年を過ぎた頃も、若者から人気だったという。バブル期から、エビちゃんもえちゃんの愛されOLの時代くらいを上げている人が多かった。*2*3*4

 

”「4℃(ヨンドシー)」とは、日本のジュエリーブランドです。4℃について50代後半の親戚に話を聞いてみると、昔はみんな4℃を持っていた!というほどの人気があったそう。

ところが最近、主にSNSなどで若者世代の「4℃はダサい」という意見を聞きます。

一見、4℃はティファニーやスワロフスキーなど、他のジュエリーブランドと大差がないようにも見えますが…”

 

"今回はインターネット上や大学などで度々耳にする、この「4°Cダサい説」について考えてみたいと思います。"

 

4°C(ヨンドシー )って、何でダサいと言われているの? | 056号室

炎上の前年の2019年に書かれた記事。記事の内容によると、当時は大学生女子の間でも、「4℃=微妙なブランド」という共通認識があったことが伺える。

 

2021年のTweet。流行が一巡したら、またこういうのが流行るようになるのかな……?

 

4℃にも、一粒ダイヤネックレスのような、女性が必要とするシンプルデザインのものもある。ただ、他のジュエリーブランドには、女性たちから「このブランドのこれ良いよね!」と支持されるような商品があって、そのブランドの象徴みたいになっていたりするものだが、4℃の場合、かわいらしすぎるハートネックレスが、このブランドの象徴になっていた。

実際、実感としても、炎上当時の4℃の商品ラインナップは、いまいち現代の女性に刺さるデザインが少ないという印象だった。

 

ちなみに、4℃は、「匿名宝飾店」にこの種のハートネックレスは出さなかったそうだ。

 

例の炎上前後で、4℃に何が起こっていたのか?

改めて調べてみたが、これまでの4℃は、女性客より男性客のほうが多いジュエリーブランドだったそうだ。

炎上以前、2019年2月期の売上比率は、女性25.4%/男性46.3%/カップル27.5%*5

炎上以後、2022年2月期の売上比率は、女性31.7%/男性38.9%/カップル29.3%*6

炎上以前は、男性客が女性客の倍近くだ。ある意味、4℃は男性向けブランドだったと言えるだろう。

 

例の炎上以前から、ある程度ファッションやジュエリーに興味がある女性たちからは、「4℃のハートネックレスを贈られたけど、嬉しくない」というシチュエーションは、あるあるな話になってしまっていた。*7また、ある種のネット民にとっては、「クリスマス後のメルカリでよく出品されているブランド」として、毎年の風物詩になっていた。*8*9*10そして、それは4℃側も把握していたようだ。

こうした状況に 4℃ 側が特に危機感を抱いたのが 「15年のクリスマス」 (瀧口社長 (引用者注: ヨンドシーホールディングス傘下でジュエリー事業を手掛けるエフ・ディ・シィ・プロダクツの瀧口昭弘社長) ) だ。男性から贈られた 4℃ のジュエリーを、女性たちが使わないままフリマアプリに続々と出品。SNS でネタにされていた。「これまでのやり方が間違っていたと気付かされた」 

4℃、もうギフトに頼らない 女性の購入、男性逆転へ - 日本経済新聞

これらの女性たちにとっては、あの炎上は、既に前々からSNS上で言われていて、今さらな話題で、「ああ、またか」という感じだったと思う。

 

ただ、今から思えば、あの炎上はこれまでとは違った。2020年の炎上は、女性のファッションやジュエリーに詳しくない層の人たち……つまり、これまで4℃の主要客であった男性たちにまで、届いて広まってしまったのだろう。現に、炎上前と炎上後で、売上高が明らかに落ちているし、Googleの検索ボリュームでも影響が見てとれるのだ。

 

実際には、4℃には女性にプレゼントしても良いようなデザインもあるにはあったし、婚約指輪や結婚指輪を扱う、ちゃんとしたブライダルラインもある。価格の割に品質は良いフェアなブランドなのだが、いかんせん、「男性が贈って、女性が嬉しくない」ハートネックレスが象徴的すぎた。

 

女性のファッションやジュエリーにリテラシーがある人たちにとっては、4℃の印象は、炎上前と炎上後で変わらなかったと思う。問題は、女性のファッションやジュエリーに詳しくない層の人……主に男性たちだった。炎上をきっかけに、これまで4℃の主要な客層であった男性たちにまで、「4℃ってダサいらしい」「プレゼントしても喜ばれないらしい」という認識が広まってしまったのではないだろうか。

 

2023年、4℃は、ブランド名を出さないで、ポップアップストア「匿名宝飾店」を実行した。また、男女が対象のユニセックスな「4℃HOMME+(ヨンドシーオムプラス)」や、石の自然美を生かした「KAKERA(カケラ)」などの新しいブランドラインを出した。

明確に女性向けに舵を取ったリブランディングによって、2024年2月期に、初めて女性客が男性客を上回ったとのこと。実際、今の4℃が押し出しているイメージや商品ラインナップは、明らかに以前とは違っている。

 

www.nikkei.com

 

 

以前から危機感を持っていた4℃も、例の炎上で、本格的にギフト用中心から女性が自分で買うブランドに方針転換することを決意したのかもしれない。

結局のところ、男性客に向けて売っていたものは、女性たちの「貰っても嬉しくない」という声が、一般的な男性たちにまで届いてしまうと、売れなくなってしまう。長くブランドを維持していくために、女性たちが自ら買いたいと思うようなブランドにしていく方向に舵を切った、ということなのかもしれない。

 

www.excite.co.jp

2022年の記事。このサイトを見ると、4℃のジュエリー売上高は、実は例の炎上以前から徐々に落ちていたようだ。もしかしたら、あの炎上が、結果的に4℃にとっての「底つき体験」になったのだろうか?

 

海外の女性たちも、ハートネックレス問題に悩んでいた。

もしかしてと思って、「ugly heart necklace(ダサいハートネックレス)」でGoogle検索してみたら、出てくる出てくる……海外の女性たちも、日本の女性たちと全く同じ問題に悩んでいた。もちろん、4℃という日本のブランドの話題は全く出てこないのだが、画像検索して出てくるものが、ことごとく日本の女性たちも「ダサい」と認識しそうな形のものばかりだった。

 

特に、これは背景画像込みで見ると味わい深い。

”どうか、バレンタインデーにハート型のジュエリーを買うのをやめてください”

www.racked.com

"As a gift, a piece of heart jewelry is a total and complete cop-out. Can you think of anything less personal and more cheesy at the same time? It’s a shallow expression of intimacy and love that doesn’t bother to consider what the giftee actually likes, unless she happens to be part of the small cadre of adult women who are actually super into heart pendants."

(贈り物として、ハート型のジュエリーは完全に言い逃れです。これより個人的でなく、同時に安っぽいものを思いつきますか? 贈り物を受ける人が実際に何を好むかを考慮しない、親密さと愛情の浅はかな表現です。ただし、その人がたまたまハート型のペンダントに非常に興味を持っている少数の大人の女性の一員である場合は別です。)

 

"It’s also an appeal to Zales to PLEASE, STOP TELLING PEOPLE WE LIKE THOSE HORRIBLE “INFINITY” HEART PENDANTS, and a plea to Kay to just cut it out. Do you really need to make over a thousand varieties? Did you have to add angel wings, too? (It’s not just the mall brands, either. You’re an offender too, Tiffany. David Yurman, we see you.)"

(これはまた、ゼールズ社に対して、お願いですから、私たちがあのひどい「インフィニティ」ハートペンダントが好きだと言うのをやめてください、という訴えでもあり、ケイに対しては、もうやめてほしいという嘆願でもあります。本当に1000種類以上も作る必要があるのですか?天使の羽も付け足す必要があったのですか?(モールブランドだけではありません。ティファニーさんも犯罪者です。デイビッド・ユーマンさん、私たちはあなたを見ています。)

ゼールズもケイもティファニーもデイビッド・ユーマンも、向こうのジュエリーブランド。わざわざ大文字で訴えている。

 

また、X(Twitter)にもこのような投稿がされており、リツイートが5.6万、いいねが37万ついており、まさに論争状態になっていた。

(あなたのガールフレンドはハート型のジュエリーなど欲しくないはずです。これを読んでもまだハート型のものが欲しいと思うなら、私はダサくないものを見つけるお手伝いをします。これは私の女性仲間への奉仕行為です。)

 

プレゼントにハートネックレスは「無難」なのか⁉

実際には、女性が自ら「欲しい」と思って買うようなハートネックレスも、世の中には存在しているけれど……ファッションが苦手な男性が選ぶハートネックレスは、大体、贈られる本人が好まないものになってしまいがちだから、自分で判断しないで、彼女の希望を聞くか、おしゃれな女性にアドバイスしてもらって下さい。

 

最近だと、ANNIKA INEZ(アニカ イネズ)のハートネックレスあたりなのかな……?

 

4℃はよく「無難なデザインが多い」と言われているが、私の感覚では、プレゼントにハートのネックレスは、決して無難ではない。「彼女はこのタイプのアクセサリーが好き」とわかっているのでない限り、あえて選ぼうとは思わない。そのくらい、実は難しいものなのだ。多くの女性たちが考える「無難なデザイン」とは、シンプルな一粒ダイヤのネックレスだと思う。

 

ハートネックレス問題について、「男性にとって女性のアクセサリーは観賞用だけど、女性にとっては実用品だから」と言っている人がいたが、確かにそう。男性だって、ドラゴン柄のネクタイを贈られても、使いどころがないだろうしね。これは、ドラゴン自体が好きとか嫌いとか、そういう問題ではないのだ。

こんなん誰が就活に使うねん。

 

4℃の今後に期待。

 選択と集中を行った効果は目覚ましく、2023年3-8月のジュエリー事業の営業利益率は6.8%。前年の4.5%から2.3ポイントも上昇しました。

 ヨンドシーのファッションジュエリーの弱点は、男性客がメインだったこと。男性目線と女性目線がかみ合わないことが、SNSで論争を巻き起こす要因の一つになっています。

 しかし、ファッションジュエリーに経営資源を集中し、ブランドの再構築を行った結果、女性客の売上高は2023年2月期に37億円となり、前期比3割増となりました。女性から敬遠されるイメージは、過去のものとなりつつあります。

「4℃(ヨンドシー)」が大量閉店した納得の理由。“女性に敬遠される”のは過去の話に――大反響トップ10 | 日刊SPA!

 

 

4℃が今後、気を付けたほうがいいことがあるとしたら、「広告炎上」だと思う。炎上する時というのは、大抵、「まるで、現場の女性たちが考えたものを、上層部のおじさんが添削したような」あるいは、「まるで、上層部のおじさんに忖度したような」感じの広告を打ってしまった時だ。

とりあえず、女性たちに対しては、特に何も言う必要はないだろう。基本的に、ただ良いものを作って、「私たち、こういうものを作りましたよ!」と見せるだけで良いと思う。

男性たちに対しては、言うことがあると思う。「彼女に喜ばれるジュエリーの選び方」みたいな。まぁ、予算を伝えて彼女に選んでもらうか、店員さんに予算を伝えて彼女の写真を見せて、あとは任せるかの、どちらかだろう。

 

4℃の今後に期待。

 

余談

この記事をほぼ書き上げた時に、これが話題になっていた。今回、4℃関連の話題について色々調べていて、これと同じことを言っている人が複数いたので(4℃の店員さんとは限らないけど)、そういう男性は、実際よくいるのかもしれない。

togetter.com

そういえば、以前こういうまとめがあったけど……これは「カップルで来て」一緒に選んでるから、幸せだってことなんだろうなぁ……

togetter.com

まぁ、贈り物で失敗するのは、誰にでもあることなので、ある意味人生の通過点と言えるかもしれない。

 

 

 

*1:ぶっちゃけ4℃に限らず好きでもない男にドヤ顔で”ティファール”とか渡されても「ハ?」ってなるやん→かなり嬉しいのでは...? - Togetter [トゥギャッター]

*2:SNSでネタにされて悔しかった…女性インフルエンサーに「今までごめん」と言わせた有名宝飾店4℃の逆襲 あえて原宿に「匿名宝飾店」を出店して大成功 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

*3:https://x.com/kensuu/status/1705073746749673481

*4:サマンサタバサ、4℃大量閉店 エビちゃんOL系が令和世代にウケない背景|コクハク

*5:4℃、もうギフトに頼らない 女性の購入、男性逆転へ - 日本経済新聞

*6:匿名出店で衝撃の「4℃」は業績不振…そもそも「誰が」買っていたのか、その「意外な客層」(坂口 孝則) | マネー現代 | 講談社

*7:4℃で喜ぶ女はチョロいのか - トイアンナのぐだぐだ

*8:メルカリにクリスマスプレゼントらしきアクセサリーが大量出品「これを別の男性が買って女性にあげるのか…」 - Togetter [トゥギャッター]

*9:クリスマス後のメルカリがとっても世知辛い状況になっております「もはや風物詩」「かなしみ」 - Togetter [トゥギャッター]

*10:毎年恒例Xmas後のメルカリに今年はいつもの以外も多く出品されているもよう「この世の業がつまってる」 - Togetter [トゥギャッター]