宇野ゆうかの備忘録

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女性は高い外見レベルを求められ、外見レベルが高い人の苦悩は無視される

anond.hatelabo.jp

 

上記の匿名ダイアリーを読んだ。

ちなみに、これを書いている私は、いわゆる「毒親」の元で育ち、学生時代にいじめに遭い、ひきこもり経験があり、そこそこ長い期間を恋愛とは縁遠く過ごした人間である。

元増田はまず、心理カウンセリングでも受けて、いじめで受けた心の傷に向き合って癒したほうがいいと思った。

 

その上で、私は特にこの部分が気になった。

私は不細工である、女性と付き合った事は無い。

女性と話す事もあまり無い、仕事で話す機会もあるが、兎に角下心と思われない様に細心の注意を払う。リスクだからではない、私の様な男が女性に好意を持っている等と誤解されて、「キモい」と思われるのが怖いからだ。

私は女性が怖い。

「キモい」と思われる事が怖い、しかし、顔も、行動も、客観的に見れば「キモい」と思われても仕方が無い。

リベラルである事で得をする事は無い。当たり前だ、得をするためじゃなく、正しいと思うから、そうしている。

フェミニストっぽい発言をする時も、もちろんそうだ、それで得をする事は無い、ただ差別は有ってはならないという当たり前の信念の下に、発言をしている。

ただ、時々、分からなくなる、彼女らは俺より不幸なんだろうか?

地獄の様だった学生時代の苦しみが何も清算されぬまま、今自分は成人ヘテロ男性であり、つまり強者で、加害者で、抑圧者で、悪である。

学生時代の苦しみは、一体何だったんだろうか?あの時の加害者の中には女性もいる。彼女は弱者で、自分は強者である。

キラキラした人、美しい女性、充実した人生を送ってそうな人がフェミニストとして、男性を糾弾する。

俺は一体何なんだろうか?

 

私は既に書いたように、およそキラキラした人生を歩んでいないタイプの人間だ。ただ、リアルで私の姿を見た人は、そんな印象は受けないだろう。たぶん、普通レベルに小奇麗な女性だ。実際に「ひきこもりに見えないよね」と言われたこともある。

それは、たまたま私がファッションに興味があるタイプの人間だったからというのも大きいと思う。外見演出能力があると、様々な困難がないように見えるんじゃないだろうか。

私の外見演出能力は、成人してけっこう経ってから身に付けたものだ。なので、学生時代に流行の格好をしてイケていたタイプではない。当時はおしゃれより漫画を描くことに夢中だったし、母親の「おしゃれや流行に興味のない子でいてほしい」という願望を内面化していたから。私は典型的なダサいオタク女子だった。

私がどんな努力をしたのかは、ここに書いてある。これを貼っておくのは、元増田のような人は、おしゃれな人がしている努力が見えていないことが多いからだ。

yuhka-uno.hatenablog.com

 

そして……これは他の女性たちにも当てはまるのではないだろうか。この社会は、見た目を整えていない女性に厳しい。多くの女性は、毎朝、化粧をしたいからしているのではなく、空気を読んで化粧をしている。

 見た目を整えないでダラダラしたり、髪振り乱して必死に動いている様子を、「女捨ててる」と言うことはあっても、「男捨ててる」とは言わない。男はいつだって男だが、女は、見た目を整えた状態が「デフォルト」と認識されている。*1

そして、女として「デフォルト」の状態になるように整えていると、「不幸に見えない」「人生充実してそう」と思われる。

 

女性は高い外見レベルを求められ――外見レベルを高くすると、抱えている苦悩はないもの扱いされる。

 

社会から、レイプ被害の苦痛が理解されない理由のひとつとして、「一見、普通に見える」というのがあった。これが交通事故だったり、ボコボコに殴られたりするタイプの暴力被害に遭ったりしたケースだと、怪我という形で被害が見える。窃盗被害も金銭という形で被害が見える。しかし、レイプ被害に遭った人は、ものすごく大きなトラウマを抱えていても、平気そうに振舞って日常を送っていれば、被害は見えなくなる。

伊藤詩織さんも、公に被害を訴え出なければ、キラキラして美人で人生充実してそうに見えただろう。

 

そして、外見を整えられないほど心身に不調を抱えている女性は、なかなか社会から見える場所には出て来られないのだろう。あるいは、出てきたとしても存在を認識されないか。でも、いるところにはいるけどね。

 

以前、『美人ってどんな気分?美人に人生観を聞いた! 』というタイトルの記事を読んだことがある。(現在、記事は削除されているが、魚拓はある。)タイトルの通り、美人にインタビューする内容なのだが、美人として出てきた女性たちが何を語っても、インタビュアーの男性が「でも美人ってだけで人生楽勝でしょ?」みたいなことばかり言って、相手の話をまともに聞いておらず、インタビューとしてどうなんだと思った。

しかし、この記事はある意味、「美人ってどういうことなのか」を如実に表していた。美人だって、他の人と同じように人生を生きていく中で、悩みや苦しみや悲しみを抱えることもある。しかし、「美人ってだけで人生楽勝でしょ?」と思われ、抱えている苦悩は無視される。

私はこの記事を読んで、「ああ、美人ってこういうことなのか……」と思った。

 

私は、外見演出力が身につく前も身についた後も、Twitterをやっていた。顔出しはしていない。けれど、私のことを、「どうせキラキラして充実した人生送ってるんだろう」と思う男性もいたし、「どうせブス・ババアなんだろう」と言う男性もいた。もう外見整えてるかどうかも関係ない。彼らは、私が女だというだけでそう言っている。

彼らの中には「※ただイケ」を強固に信じている人もいたけれど、顔も見えない相手の外見を勝手に決め付けたり、外見が整っていれば「人生充実してるだろう」と思ったりするほうが、ずっと他人を外見で判断していて、頭の中が外見至上主義に支配されていると思う。

学生時代に自分をいじめた女子を、私に投影しているんだろうなと思う男性もいた。私も学生時代いじめられる側だったんですけど。

 

もっとも、外見レベルが高い人の苦悩を無視するのは、男性に限ったことではないけれど。これなんかは、女性が女性に偏見を持っていた話かな。

mamiamamiyaisalive.hatenadiary.jp

 

学校の、いわゆる「スクールカースト」においては、おしゃれはカースト上位層に許されたもので、いじめられている下位層がやろうものなら、途端に「生意気」と見なされて、嘲笑の対象にされるような空気が存在することは多い。

だが、社会に出たら空気は変わる。なのに、学校と同じ感覚でいると、「おしゃれしてる人=スクールカースト上位者」「おしゃれは自分には許されないこと」みたいな勘違いをし続けてしまう。

だいたい、おしゃれといっても、カースト上位層の彼ら彼女らが、例えば服飾専門学校に行きたいと,か、ファッションの歴史に関する本を読みたいとか、そういう方向でおしゃれに興味があったのかというと、そういうわけでもないのだから。

 

増田は、女性を避けているがゆえに、女性の内面に触れる機会が乏しいのだろう。その結果、女性を外見で判断してしまっている。でも、他人をいじめるタイプの人間かかそうでないか、暗い過去や苦悩を抱えているかどうかって、外見じゃ判断できないよ。学生時代に自分をいじめた女子と、世の中の女性は、別の人間だから。

なんか、父親が浮気性で家庭が苦しかったトラウマから、「どうせ男は皆浮気するんだ」と男を避けたり、付き合った男全員に「どうせあんたも浮気するんでしょ!」って態度で接してしまう女性に似てると思った。本人にとってすごく辛いのはわかるけど、誠実な男性にとっては、とばっちり以外の何物でもないよね。心理カウンセリングとか受けて心の傷を癒したほうが良いと思う。

 

あと、増田は、男であることに必要以上に罪悪感を感じているようだけれど、社会的集団としての「男」と「男である自分」とが必要以上に一体化してしまって、罪悪感を感じすぎてしまうのは、「日本」と「日本人である自分」とが必要以上に一体化していて、「日本スゴイ」「だから俺もスゴイ」ってなってる人と、実はコインの裏表みたいなものなのかも。

 

余談だが、親が毒親だったこと、学生時代にいじめに遭ったこと、ひきこもりになったことは不本意だが、そこそこ長い期間を恋愛とは縁遠く過ごしたことは、私にとっては不本意ではない。もともとモテたいという願望が乏しいのだ。*2

私にとって不本意なのは、ある程度年齢を重ねている人間が恋愛やセックスの未経験者であることを、おかしいと思っている人が、世の中にまだ沢山いることのほうだ。

 

今回の話の内容は、この問題と近いところにあると思う。

“携帯を持ち、一見小奇麗な格好をしているその生徒がまさか、保険料も払えず、授業料と家賃のために深夜までアルバイトをしていると想像することは容易ではない。”

『ルポ 子どもの貧困連鎖』 見えない苦しみ - HONZ

 “ 一方、5人の外見は、ごく普通です。服は破れていませんし、汚れてもいません。

 ヒカリさんは、「服はいま安く買えますからね。むしろ貧困だとバレないように他人に見える部分は気をつかいます」と、言います。”

「理想の貧困」に苦しむ…リアル当事者 スマホもライブもダメなの?

 

社会からの「外見へのプレッシャー」により、多くの女性が(美しい女性でさえ)持っている「自分は美しくない」という感覚。


ダヴ: リアルビューティー スケッチ | あなたは自分が思うよりもずっと美しい

 

〔2020.06.29追記〕

id:tureture30 私はこの増田さんに近い価値観かもしれません。生まれ持ってきれいな女性は容姿を武器に男を食い物にしているという先入観があります。それは本人が意識していなくてもです。カッコいい男もそうなのでしょうけれど、

なるほど。そういう先入観を持っている男性が多いことは知ってはいたけれど、私自身から遠い感覚なので見逃していた。続き書くかも。

*1:というわけで、私は「『女捨ててる』じゃなくて『野生に戻る』って言おう」と言っている。→https://twitter.com/YuhkaUno/status/1007082266806255616

*2:自分はデミセクシャルに近いのだと思う。→デミセクシュアルとは?当事者に聞いてみた【恋愛において大切なのは、絆?】