外国人が高級抹茶を買い求める背景には、海外における盛大な勘違いがあった〜日本人が知らない「セレモニアルグレード」という抹茶用語
海外で抹茶がブームになり、外国人が高級抹茶を爆買いしている。彼らは、希少で高級な抹茶から買っていくため、茶道に携わる人たちは、抹茶の調達に以前より苦労しているそうだ。そのせいで、転売が横行している。
なぜ外国人は、そんなに高級な抹茶ばかり求めるのか。理由を調べてみたのだが、どうやら海外での盛大な勘違いが原因らしい。キーワードは「ceremonial grade(セレモニアルグレード)」だ。
” 店内の棚をみると商品のうち、30グラム1万2千円、8千円などの高級な抹茶のほとんどが売り切れになっていました。
多くの外国人観光客は、希少で高級な抹茶から買っていくため、高級品は品切れ状態が続いているといいます。中村藤吉本店 中村省悟 社長
「“品質の良い抹茶はどれですか?”と聞かれる海外のお客様は非常に多いです。その状況が続いたことで、今までに経験のないくらい販売が急増し始めました。その結果、生産が追いつかなくなってしまって、売り切れの商品が多発し、供給が不安定な状況が続いています」”
”「海外の方には高いものから売れていくのですが、とにかく安く感じるようです。理由の一つは転売されているからです。私たちの売る抹茶が何倍もの値段でサイトで売られています」”
日本人が知らない抹茶用語「セレモニアルグレード」
近年の海外の抹茶ブームは、抹茶ラテが中心になっている。つい近年までは、抹茶は「草みたいな味がする」と、それほど人気ではなかったのだが、TikTokなどのSNSで、抹茶ラテがコーヒーラテより健康的だとインフルエンサーが広めて、若い世代を中心に流行しているらしい。マインドフルネスなイメージや、鮮やかな緑色がSNS映えするんだとか。 そして、独自に抹茶ラテを売る店や、自分で抹茶ラテを作る人が出てきたという流れのようだ。最初はアメリカとヨーロッパから始まり、最近は中東で需要が急増している。そして、そこで使われているのが「セレモニアルグレード」という言葉だ。
英語では、茶の湯は「ティーセレモニー」と訳されるので、「セレモニアルグレード」という言葉からは、「茶道で使われる等級の抹茶」という意味のようなイメージがする。そして、海外の抹茶ラテを提供する店では、「当店の抹茶ラテはセレモニアルグレードを使用しています」と宣伝していることが多い。おそらく、海外では粗悪な抹茶が多かったことと、ある種のステータスを表現するために、店は、そう言うことで顧客にアピールしたかったのだろう。
抹茶の等級については、何かしら向こうの共通基準があるわけではなく、誰でも「当店の抹茶はセレモニアルグレードです」と言ってしまえる状態だそうだ。現在、この言葉は、完全に海外独自の抹茶のマーケティング用語になっている。
現在、海外では、抹茶は「ceremonial grade(茶道用等級)」と「culinary grade(料理用等級)」の二種類だと認識されている。この「セレモニアルグレード」という言葉のせいで、海外の人たちの間では、「”茶道用”=良い・”料理用”=不味い・粗悪品」というイメージが形成されてしまっているようだ。つまり、海外の人たちの間では、抹茶ラテや抹茶菓子などを作るのですら、茶の湯で使われる高級抹茶でなければならない、高級であればあるほど良い、という勘違いが形成されているらしい。おそらく、外国人が高級抹茶を求めて爆買いしているのは、そういう理由だ。そして、日本の高級抹茶は品薄状態になり、転売屋が横行している……
実際に茶道をやっているらしい外国人の投稿も見かけたのだが、海外で「セレモニアルグレード」と呼ばれている抹茶は、日本の”本物の”セレモニアルグレード、つまり、茶道で使う抹茶よりも、低級品であることが多いとか(そりゃ当然よね……)。そして、海外在住の日本人の話によると、向こうのスーパーマーケットなどで売っている抹茶は、品質が悪い「抹茶もどき」が多いという。
"Historically, matcha has been a niche product. Unlike the USA, where Matcha is a casual drink (Matcha Latte), in Japan, Matcha is primarily used in tea ceremonies. In fact, Matcha only makes up 6% of Japan’s tea industry with an annual output of 77,200 tons in 2022.
With such low volume, and used only in mostly formal circumstances, Matcha is certainly famous in Japan but not popular. Put simply, it’s not consumed often. When I tell this to customers at the Ooika cafes, they are often surprised to hear this. "
(歴史的に、抹茶はニッチな商品でした。アメリカでは抹茶はカジュアルな飲み物(抹茶ラテ)として親しまれていますが、日本では抹茶は主に茶道で用いられています。実際、2022年の日本の茶産業における抹茶の年間生産量は77,200トンで、全体のわずか6%を占めるに過ぎません。
抹茶は日本では非常に少ない量で、主にフォーマルな場でしか使われていないため、確かに有名ではあるものの、あまり普及していません。簡単に言えば、あまり飲まれていないということです。Ooikaのカフェでこのことをお客様に話すと、よく驚かれます。)
All about the Global Matcha Shortage (the Complete Guide) — Ooika (覆い香)(世界的な抹茶不足について(完全ガイド))
このサイトには、かなり正確なことが書かれていると思う。そして、この文章の内容から、海外における第二の盛大な勘違いがうかがえる。……つまり、海外の人々の多くは、あの茶の湯に使われるような最高品質の抹茶を、日本人は、カジュアルに日常的に飲んでいると思っているのではないだろうか。日本人の感覚からすると、希少で生産量が限られている高級抹茶を皆が買い求めて、日常的に消費したら、すぐに品不足に陥るだろうということは、当たり前に想像できるのだが、海外の人々にとっては、それは全く意外なことなのかもしれない。
海外の抹茶に関する記事や動画などを見ていると、現状を正しく認識して、正しいことを発信している人は、とても少ないようだ。
実際の抹茶の等級と用途、そしてラテに向いている抹茶
茶の湯で使われる抹茶には、濃茶用と薄茶用がある。濃茶は、格式高い席で用いられる、最高品質の抹茶で点てられるもので、少量の湯で練って点てられるため、濃厚でとろみがある。薄茶は、一般によく知られている、泡立てて点てられる抹茶で、濃茶よりカジュアルな席で用いられる。その下に稽古用の抹茶があり、これは茶道の練習をするためのものだ。
今現在、一般的にはお抹茶といえば、「薄茶」を連想することが多いのですが、実は、 茶道においてはここで述べてあるように「濃茶」の方があらたまっていて、最も重要な おもてなしとされています。
”There’s a notable lack of awareness about the various matcha grades: baking grade, latte grade, usucha grade, and koicha grade. Many mistakenly assume baking or latte grade matcha equals “bad,” while usucha grade or koicha grade equals “better”. Consequently, people are using mid to high grade usucha and koicha grade matcha in lattes. However, these matcha grades are intended to be enjoyed with water. They have subtle, complex notes that become muted or even lost entirely in milk.”
(抹茶の等級(ベーキンググレード、ラテグレード、薄茶グレード、濃茶グレード)について、あまり認識されていないのが現状です。多くの人が、ベーキンググレードやラテグレードの抹茶は「まずい」、薄茶グレードや濃茶グレードは「良い」と誤解しています。そのため、ラテには中級から高級の薄茶や濃茶グレードの抹茶が使われています。しかし、これらの等級の抹茶は水割りで楽しむことを想定しています。繊細で複雑な風味を持つこれらの抹茶は、ミルクを入れると風味が弱まり、場合によっては完全に消えてしまうこともあります。)
海外の掲示板からの引用。この人は正しいことを言っているのだが、掲示板の返信を見ると、いまいち理解していない人も多いようだ。
"6 Pro Tips to Make the ULTIMATE Matcha Latte 🍵 | Avoid Bad Café Matcha for Good!"(究極の抹茶ラテを作るための 6 つのプロのヒント 🍵 | 質の悪いカフェ抹茶を永久に避けましょう)
抹茶ラテの作り方を説明している海外の人。(1:13から)「茶道用」と「料理用」の違いについて説明しているが、「料理用」抹茶について、工業地帯に近い場所で栽培されていたり、農薬を過剰に散布されたものだったりで、身体に悪いもの、みたいな説明をしていて、「最高品質の抹茶を選ぶことが非常に重要」と言っている。こんなん聞いたら、そりゃ最高級抹茶買うしかないと思ってしまうわ……
粗悪な「抹茶もどき」が多い海外では、そういう考え方が当てはまるのかもしれない。しかし、実際の「茶道用」抹茶と「料理用」抹茶の違いは、一番茶二番茶三番茶、手摘みか機械摘みか、石臼挽きか機械挽きか*1などの、収穫時期や製造工程などの違いだから……つまり、同じ生産者から「茶道用」も「料理用」も作られているのだ。
どうやら、海外の顧客は、一番茶(茶道で使われる抹茶)のみに興味を示し、二番茶三番茶には、あまり興味を示さない傾向があるらしい。日本人は、その二番茶三番茶で、ラテやお菓子を作っているのだが……
最高級の茶葉(ファーストフラッシュ抹茶)は4月と5月に収穫され、農家はそれ以降の抹茶の人気急上昇を予測する術がありませんでした。よりグレードの低い「セカンドフラッシュ」と「サードフラッシュ」の抹茶はそれぞれ6月から7月、9月から10月に収穫されますが、ブランドや顧客の間ではそれほど人気がありません。
Japan's Matcha Shortage: What Happened and Alternative Sources過(剰消費により、日本では前例のない抹茶不足が発生)
私は試してみたことはないが、茶道用の高級抹茶をラテや菓子に使って、美味しいのかというと、そうでもないらしい。他の材料と混ぜてしまうと、繊細な風味が台無しになるのはもちろん、抹茶の味が薄くなってしまうそうだ。逆に、そのまま飲むには苦味が強い食品加工用抹茶は、他の材料に混ぜ込んで使うと、抹茶の風味が引き立って美味しいそうだ。
"Matcha Shortage | History, Context, and Predictions"(抹茶不足|歴史、背景、そして予測)
この人は正しいことを言っていると思う。おそらく、茶道をしている人だろう。(13:25から)「現在、日本から出ている主な解決策のひとつは、適切な用途に適切な茶葉を使用するようにというシンプルな指示です」「品質が高いほど良いというのは一般的な誤解です」抹茶ラテなどのミックスドリンクを作るなら、稽古用の低級や料理用の高級が良いと勧めている。実際に日本で売られている抹茶も、「稽古用・抹茶ラテやお菓子作りにも」などと書かれている商品が沢山ある。
こういうのとか。
海外では、抹茶はスーパーフードと言われ、健康食品扱いされている
海外では、抹茶が健康的なスーパーフード扱いされている。GoogleやSNSで「matcha superfood」で検索すると、そのような内容だらけだ。「これはキヌアの時と一緒だ」と言ってる人がいた。どうやら、日本人は日常的に抹茶を飲んでいるから健康なのだと思っている人が沢山いるようだ。健康志向と結び付けられているからこそ、オーガニックなものを求め、高品質なものほど効果があると思っているという背景もあるようだ。ある種の「健康食品ビジネス」になっている気配もする。
"Instead, matcha has been reinvented in the United States as a healthy ingredient that can be added to anything from smoothies to muffins. This consumption of matcha in the United States is predominantly health-focused, and U.S. marketers and health-food writers highlight its high antioxidant content, along with its multitude of health benefits, including fat-burning and cancer-fighting properties. In transforming the way that matcha is consumed and framing it based on these properties, health and wellness writers, health food marketers, and health-conscious eaters have effectively erased the cultural context from which matcha originates."
(その代わりに、抹茶はアメリカで、スムージーからマフィンまで何にでも加えられる健康的な食材として再発明されました。アメリカにおける抹茶の消費は主に健康に焦点を当てており、アメリカのマーケティング担当者や健康食品ライターは、抹茶の抗酸化物質含有量の高さや、脂肪燃焼や抗がん作用など、数多くの健康効果を強調しています。健康・ウェルネスライター、健康食品マーケター、そして健康志向の消費者は、抹茶の消費方法を変革し、その特性に基づいて抹茶を捉えることで、抹茶の起源となる文化的文脈を事実上消し去ってきました。)
これは2018年の記事なので、2020年以降の抹茶の「SNS映え」ブームについては書かれていないが、ここで書かれている健康作用は、海外で抹茶について語られている多くのサイトに当てはまる。
そもそも、日本人がアメリカやヨーロッパの人たちと比べて、お茶を飲むことで健康的な一番の理由は、日常的に無糖の飲み物を飲んでいるからなのでは……?実際、日本人は抹茶ラテを健康的だと思ってないよね。あれは、ただの糖分と脂肪分が入ったデザートだ。
なので、海外の人たちに、煎茶やほうじ茶や番茶や玄米茶を勧めるか、あるいは、実際に日本人が健康的な飲み物だと思っている青汁を勧めてみるのはどうだろうか?色も抹茶と似てるし。
Hi! Thank you for answering. Mainstream media sure makes it seem like the Japanese are drinking 4-5 cups of matcha daily and eating purple sweet potatoes. I must be the only one consuming matcha like crazy.
(こんにちは!ご回答ありがとうございます。主流メディアでは、日本人は毎日4~5杯の抹茶を飲んで、紫芋を食べているかのように報道されていますね。抹茶を狂ったように食べているのは私だけでしょうか。)
How many cups of matcha do Japanese people drink a day on average?(日本人は1日に平均何杯の抹茶を飲むのでしょうか?)
それに、日本人女性の肌がきれいなのも、東アジアでは肌の美しさが重視されるので、肌の手入れや、肌をキレイに見せるコスメを重視しているからだと思う。だから、資生堂の肌カウンセリングとか受けたら良いと思う。あと、ぶっちゃけ、湿気が多い気候もあると思う。
そもそも、日本人が健康的な理由は、学校教育における給食と家庭科の授業にあると思う。私は、これを「ジェイミー・オリヴァーの給食改革」を見て思った。イギリスの有名シェフが、子どもが生まれたことから、学校給食のあまりの酷さを何とかしようと奮闘するドキュメンタリーだ。それを見ていると、イギリスの給食の酷さもさることながら、どうやら、向こうの大人たちには、日本の中学生でも当たり前に理解しているような、栄養バランスの感覚がないことがうかがえた。
イギリス人やアメリカ人は、食生活におけるアダルトチルドレンのような人が多いのだろうと思った。子供の頃に、健康的な食事を体験していなければ、大人になっても、健康的な食事とは何なのかがわからない大人になってしまう。
抹茶は魔法の飲み物ではないし、日本人の健康の秘密でもない。日本人のように健康的になりたければ、平均的な日本人の食生活の全体像を見る必要がある。何かひとつの日本食品だけを「これはスーパーフードだ!これが日本人の健康の秘密だ!」と言うことには、何の意味もない。
結局のところ、健康的な食事とは、すべての栄養素を適切な量でバランスよく摂取することだ。抹茶も、飲みすぎればカフェインの過剰摂取になってしまう。健康的になるには、日本の抹茶を買うよりも、日本の家庭科の教科書を買ったほうがいいだろう。
ちなみに、日本人は総じて身体的健康度は高いが、精神的健康度やメンタルヘルスへの理解度が高いとは言えない。
海外では、抹茶の文化盗用についての議論がある
欧米では、抹茶と文化盗用に関する議論が盛んに行われている。
海外のある会社がチューブ入りのペースト状抹茶を作ったのだが、その商品の宣伝方法で非難を浴びることになった。
""Let's make matcha, but we don't need any of this crap," the company's founder Mujtaba Waseem said in the advertisement as he pushed matcha powder, a bamboo whisk (aka a chasen), a strainer, a bowl, and other traditional matcha tools off his counter to make room for his matcha squeeze tube."
(「抹茶を点てよう。でも、こんなくだらないものは一切いらない」と、同社の創業者ムジタバ・ワシーム氏は広告の中で、抹茶の粉末、茶筅、茶漉し、茶碗など、抹茶を点てる伝統的な道具をカウンターから押しのけ、抹茶のチューブを置くスペースを作りながら語った。)
この会社は、なぜ単に「これなら泡だて器を使わず、簡単に作れます」と言うのではなく、何世紀にもわたって茶道で使用されてきた道具を『crap(くだらない)』と言う必要があったのかと批判され、炎上状態になったようだ(そりゃそうだ)。
海外の抹茶ラテの作り方の動画を見ると、茶筅を使っている人がけっこう多い。一方、日本の抹茶ラテの作り方を検索してみると、そのほとんどが、茶筅を使っていないものばかりだ。まぁそりゃそうだ。大多数の日本人は、茶筅を持っていないのだから。
このサイトでは、大学で裏千家茶道部に所属していた人が、茶筅を使って点てる代わりに、しっかり密閉できるタッパーを使ってシェイクする方法を紹介している。また、このサイトは、お茶がテーマのレストラン&ホテルのもので、注文ごとに店員が茶筅を使って一杯一杯茶を点てることを宣伝している。
海外の掲示板を見ると、「抹茶を西洋式に消費するのは文化盗用なのではないか」「日本人だって、抹茶ラテや抹茶クッキーを消費しているぞ」といった議論があった。どうやら、向こうでは、欧米人があまりにもラテやクッキーやケーキなどにして、西洋式に消費するので、抹茶不足になったし、日本人が戸惑っているのではないかと思っている人がいるようだ。
もちろん、抹茶が西洋でトレンドになるずっと前から、日本では、ラテ、ケーキ、チョコレート、石鹸などを作るのに抹茶が使われていた。スターバックスの抹茶フラペチーノは、もともと日本人向けの商品だ。日本人が戸惑っているのは、基本的には茶道に使われるような高級抹茶を、外国人が爆買いして、それでラテやケーキなどを作っていることだ。
多くの日本人は、茶道用に使われる高級抹茶は、希少で生産量が限られているので、皆が日常的に消費するようになったら、あっというまに抹茶不足になってしまうということは、感覚的にわかる。それに、本来、その香りと繊細な風味を味わうための高級抹茶を、ミルクや砂糖などと混ぜてしまうなんて、「もったいないことを!」という感覚もある。やはり、茶の湯で使われるために作られた高級抹茶は、今でも日本人にとっては、ある種の「聖域」なのだろう。
歴史的に、茶として飲むものだけが抹茶だった期間が長く、やがて茶として飲むのに適していない茶葉が、料理に使われるようになった。そのため、日本人の感覚からすれば、高級抹茶は、基本的に茶道用か、あるいは伝統的な点て方で入れられるもので、それより下の抹茶は、アレンジ自由、茶筅などの茶道具不要といったところだ。
日本人も、抹茶ラテや抹茶菓子だけを消費して、茶道をやっていない人は沢山いる。というか、そっちのほうが多い。そして、そういう人は一般的に高級抹茶は買わないのだ。そういう日本人の多くは、普段は煎茶や番茶や麦茶などを飲み、たまに甘味処や茶屋などへ行った時に、店の人に抹茶を点ててもらう程度だろう。
"This scarcity of Uji-made ceremonial matcha fosters a sense of exclusivity, which further fuels the zeal of tourists. Hisaki says that since the start of the year, their store will sell a month's supply of matcha powder in a single day. And if the frenzy continues, she says, tea ceremony instructors, temples and shrines could have difficulty securing supply."
(宇治抹茶の希少性は、その希少性によって観光客の熱狂をさらに刺激し、特別な存在として認識されています。久木さんによると、今年に入ってから、店の抹茶パウダーは1日で1か月分が売れてしまうこともあるそうです。この熱狂が続けば、茶道の先生や寺社仏閣は供給確保に苦労する可能性があると彼女は懸念しています。)
Who drank all the matcha? How tourism drained a Japanese town(抹茶を全部飲んだのは誰? 観光が日本の町を疲弊させた)
It's "a bit sad" to see high-grade matcha used in cooking - where its delicate flavour is often lost - or stockpiled for resale, said Ms Mori.
"Matcha is the highest grade of tea and it's so special to us. So there's a bit of a contradiction when I hear stories about how it's resold or used in food."
(高級抹茶が料理に使われ、その繊細な風味が失われてしまうことや、転売のために備蓄されているのを見るのは「少し悲しい」と森さんは語った。
「抹茶は最高級のお茶で、私たちにとって特別なものです。ですから、抹茶が転売されたり、食品に使われたりする話を聞くと、少し矛盾を感じます。」)
外国人も日本人も、希少な宇治の高級抹茶を「特別」だと認識しているが、その意味合いは異なっているようだ。
今後、「抹茶不足」にどう対処するべきか?
海外の抹茶不足に関する記事は、本当に沢山あるのだが、この最も肝心なこと書いているサイトは、本当に僅かしかない。海外の記事の多くは、TikTokなどのSNSで抹茶がブームになったことや、抹茶を作るのにかかる手間のことや、伝統とトレンドについてや、関税についてのことぐらいだ。
もしかしたら、彼らにとっては、この事実は盲点なのかもしれない。「日本人は毎日抹茶を飲んでいる」……これは、日本人は皆アニメを見ているとか、日本人は日本食ばかり食べているとか、海外の人が日本に住んで、初めて思い込みだったと知るような類のことなのかもしれない。まずは、この事実を知ってもらうことからだろう。
まぁ、抹茶を「高価な健康食品」として売りたい人たちにとっては、不都合な真実かもしれないが。しかし、茶道具を粗末に扱った企業が炎上したところを見ると、海外の人たちは、抹茶の文化を尊重しようとする人は多いように思えた。
海外の人たちに、ラテやケーキなどを作るために高級抹茶を買うことは、日本ではクールだとはみなされないこと。日本人は、用途やライフスタイルに合わせて、抹茶を選んでいること。作りたいものが抹茶ラテや抹茶菓子なら、高級抹茶を買う必要はないと啓蒙していくほうが良いのだろう。タピオカミルクティーを作るのに、高級なゴールデンチップの紅茶の茶葉を買う必要はない。
あと、抹茶ラテを作りたい外国人向けに、わかりやすい「ラテ用抹茶」商品を用意しておく必要があるかもしれない。多くの外国人は、ラベルに書いてある日本語も、抹茶の用語もわからないだろう。この記事を読むと、何をどう使うのかわからないまま、高級抹茶を買っている人も多いようだ。
”I join the queue to pay for my 30g tin, not knowing exactly what I've grabbed or how much it costs. I surmise that I didn't get the more potent of matchas, as others have tins of varying shades of green. ”
(30グラムの缶入り抹茶を買う列に並んだが、何を買ったのか、値段も正確には分からなかった。他の店は緑色の缶入りのものが多かったので、濃い抹茶を買っていないのだろうと推測した。)
Who drank all the matcha? How tourism drained a Japanese town(抹茶を全部飲んだのは誰? 観光が日本の町を疲弊させた)
これだけ世界的に抹茶が広がってしまうと、いずれは抹茶も、茶道で使える品質ではない抹茶を「セレモニアルグレードです」と言われて混乱を招かないよう、ワインやシャンパンなどと同じように、厳格な国際基準を設けて保護する必要に迫られるようになるかもしれない。
将来的には、「セレモニアルグレード」という言葉は死語になり、ラテやベーキングには、ラテ用や料理用の抹茶が使われるのが当然になってほしい。そして、現在、海外で「culinary grade(料理用等級)」と呼ばれている粗悪な抹茶は、単に「粗悪品」と呼ばれるようになってほしい。
そして、ゆくゆくは、茶道と、抹茶の品質と用途に対する正しい認識を広めていく必要があるだろう。日本人は、いくら茶道について知らないといっても、習得するには先生について習う必要があり、人に教えるには茶道の世界で認められている必要があるということくらいは知っているが、海外の人の中には、おそらくそれも知らない人がいるのではないだろうか。
まとめ
- 海外では、実態のない「セレモニアルグレード」という言葉が使われており、「ceremonial grade(茶道用等級)」は良い、「culinary grade(料理用等級)」は不味い粗悪品だと思われ、用途に限らず、高級であればあるほど良いと思われている。日本では、高級抹茶は基本的に茶道用で、中級以下がラテや菓子に使われていることを知らない。
- 海外の人々の多くは、高品質の抹茶は、もともと希少で生産量が限られているということを知らない。日本人が日常的に摂取している、生産量が多い一般的な商品だと思っている。
- 海外では、抹茶は健康志向と結び付けられていて、スーパーフードだと言われている。日本人が健康なのは、毎日抹茶を飲んでいるからで、高品質なものほど健康に効果があると思っている。
それにしても、欧米で健康的な「スーパーフード」だと言われたものが、日本でも輸入されて、一部の人達の間で流行ることもあるが、自分たちがよく知っている食品が、この「スーパーフード化」の対象になってみれば、あれらは何とも馬鹿馬鹿しいことだったのだなぁと思う。
また、80年代〜90年代前半、日本の庶民が初めて経済的豊かさを体験したバブル期に、欧米のブランド物を買いまくる現象があったが、あれはもしかしたら、現地の人々にとっては、現代の抹茶爆買い現象と似たようなものだったのかもしれない。
そして、この抹茶ブームがこの先どうなるのか、わからない。ブームが去った後、海外で抹茶が定着するのか、それとも人々が新たなスーパーフードやインスタ映えに乗り換えるのか……
"It is much to be regretted that so much of the apparent enthusiasm for art at the present day has no foundation in real feeling. In this democratic age of ours men clamour for what is popularly considered the best, regardless of their feelings. They want the costly, not the refined; the fashionable, not the beautiful."
1906 From “The Book of Tea” by Kakuzo Okakura
「実に遺憾にたえないことには、現今美術に対する表面的の熱狂は、真の感じに根拠をおいていない。われわれのこの民本主義の時代においては、人は自己の感情には無頓着に世間から最も良いと考えられている物を得ようとかしましく騒ぐ。高雅なものではなくて、高価なものを欲し、美しいものではなくて、流行品を欲するのである」
おまけ
X(Twitter)でこのことを呟いたら*2、「エクストラバージンオリーブオイルと一緒だ」と言う人が何人かいた。
炒め物にまでエキストラバージンオイル使いたくなっちゃう日本のことを笑えないな https://t.co/7KkfsWT3Rm
— スーザン小林(本物) (@SuzanneK23) 2025年8月19日
日本におけるオリーブオイルと似たような感じですかね
(エクストラバージン使ってればいい訳ではない)— Dusk_LAV (@Dusk_LAV) 2025年8月19日
オリーブオイルはエクストラバージンに限る(用途を考えろ)の海外版か…
— caesark (@caesark) 2025年8月19日
エクストラバージンオリーブオイル、パンにつけたり、バニラアイスにかけたり、マリネとかドレッシング的に生食で使うものだと思ってたんだけど、合ってるかな?
香りに用がある時に使うものですからね
揚げ油に使うとか、スパイス等の他の香りを立てる使い方をするなら普通のオリーブオイルで十分です— caesark (@caesark) 2025年8月26日
なるほど。
あと、宇治土産といえば、茶団子だよね!おばあちゃんの家に行くとたまにあるお菓子という感じの、懐かしい味。宇治に行くと、必ず買いたくなるお土産。
[2025.11.7 追記]
続き書きました。
*1:石臼挽きと機械挽きの違いは、粒子と摩擦熱である。石臼でゆっくり挽かれた抹茶のほうが、粒子が細かく滑らか。また、金属製の機械で短時間で挽いた場合、摩擦熱が発生して、温度が高くなってしまう。そうすると、茶葉の香りが飛んでしまうのだ。石臼でゆっくり挽くと、摩擦熱が抑えられるが、どうしても時間がかかるので、その分希少で高価になる。


