宇野ゆうかの備忘録

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「ユニクロでよくない?」の理由~おしゃれの基準が“服”ではなく“技”になった時代

president.jp

 上の記事の内容を読んで、以下のブコメを書いたところ、

id:yuhka-uno これについては、『ほぼユニクロで男のオシャレはうまくいく(著:MB)』と『ユニクロ9割で超速おしゃれ(著:大山旬)』、骨格診断とパーソナルカラーの人気に触れていなければならないと思う。

 本当にMB氏と対談していたので、ちょっと面白かった。

gendai.ismedia.jp

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ユニクロが「ダサくなくなった」のはいつからか?ということについて、ちょうど手元に『「売る」から「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義 (著:水野学)』という本があり、その中でユニクロブランディングについて触れられている箇所があるので、引用してみようと思う。

 

この本の中で、水野氏は、ブランド力がある企業の3条件として、

ひとつは、「トップのクリエイティブ感覚が優れている」こと。

もうひとつは、「経営者の“右脳”としてクリエイティブディレクターを招き、経営判断をおこなっている」こと。

そして最後は、「経営の直下に“クリエイティブ特区”があること」です。

と書いており、そのうちの2つめ、「経営者の“右脳”としてクリエイティブディレクターを招き、経営判断をおこなっている」企業の代表例として、ユニクロを挙げている。

2014年10月のことですが、「ユニクロ」を傘下にもつファーストリテイリングが、新しく設置した「グローバルクリエイティブ統括」のポジションに、ジョン・C・ジェイ氏を起用すると報じられました。

 水野氏はジェイ氏のことを「存命するクリエイティブディレクターのなかではナンバーワンだと思っている」と書いている。

 

この本の内容と、2014年10月に書かれたファーストリテイリングのプレスニュース*1によると、1999年、ユニクロが都心に進出した時期に、大量のフリースが生産されていく様子をただ静かに映したCMを手がけたのは、ジェイ氏らしい。おそらく、あの辺りが、それまで山口県を拠点にして、おばちゃんがレジ前で服を脱いで商品を返品するCMを流していたユニクロの、転換期だったのだろう。

その後、契約が終了したジェイ氏は、ユニクロから離れるが、2014年に再びファーストリテイリングと組むことになった、ということのようである。

 

下の柳井社長のインタビュー記事にも、ジェイ氏の存在に大きな影響を受けたこと、また、『ユニクロが私たちの中で「ダサくなくなった」のはいつからか(米澤 泉,MB) | 現代ビジネス 』の記事のブコメでも言及している人が複数いた、ユニクロロゴマークを変えた佐藤可士和氏のことなどが語られている。

forbesjapan.com

 

元記事の「ユニクロが私たちの中で『ダサくなくなった』のはいつからか」の中では、米澤氏もMB氏も、2014~2015年くらいと認識している様子だ。おそらく、2014年あたりからユニクロのブランドとしての強化があり、ちょうどそこにノームコアの潮流がきたことと、オフィス着のカジュアル化が進んだこともあって、一気に「ユニクロでよくない?」となった、ということなのかもしれない。

 

 さて、本題はここからである。一番最初に紹介した記事は、著者の米澤泉氏の新書『おしゃれ嫌い 私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』に沿った内容らしいが、元記事にはこんなことが書かれている。

“そのようななかで、80年代や90年代には考えられなかった服を買わないという選択も推奨されるようになった。なるべく少ない服を着回すことが求められ、「毎日同じ服を着るのがおしゃれな時代」とまで言われるようになった。そんな時代だからこそ、ユニクロの「ライフウェア」がいっそう支持される。

ベーシックで、シンプルで、組み合わせやすい服装の部品。仕事にも「ユニクロ通勤」すればいいし、毎日のコーディネートもユニクロを中心に着回せばいい。よく考えてみれば、みんな、もともとおしゃれがそんなに好きではなかったのかもしれない。でも、今までは毎日とっかえひっかえ着替えなければならないと思わされていたのだ。おしゃれをしなければならないと思わされていたのである。”

ユニクロが私たちの中で「ダサくなくなった」のはいつからか(米澤 泉,MB) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)

 著者は、「みんな、もともとおしゃれがそんなに好きではなかったのかもしれない。」と書いていて、その結果として「もう、ユニクロで良くない?」になっている、というようなことを書いている。でも、私から見える風景は、少し違うように感じられるのだ。

 

私は、現代においても、おしゃれに対する人々の関心は高いと思っている。自分のダサさをどうにかしたいと思っている人や、「大学デビュー」を気にする若者は、依然として多い。ネット上には、自分のコーディネイトをSNSに上げる人や、メイク方法を解説するYouTuberが沢山いる。女性の間ではパーソナルカラーや骨格診断が人気だ*2。2010年代に入ってからは、おしゃれ初心者の男性層に、メンズファッションのイロハを解説する本が次々に出版された。ブコメで言及した『ほぼユニクロで男のオシャレはうまくいく スタメン25着で着まわす毎日コーディネート塾(著:MB)』や『ユニクロ9割で超速おしゃれ(著:大山旬)』も、その中の2つだ。どちらもとても売れている。

ただ、おしゃれに関心はあっても、バブル期ほどには、見栄で消費したり競争したがっているようには見えないけれど。

 

私は、バブルという時代は、「高いブランド物を身につけたからといって、おしゃれになれるわけではない」という教訓を残した時代だったと思う。それから、「一生ものだと思って買った高いものが、結局は一過性のものだった」という教訓も。

あれだけおしゃれに狂乱したのに、結局おしゃれになれていない。おしゃれな服を買ったからといって、おしゃれになれるわけではなかった。じゃあ、どうすればおしゃれになれるのか?

私は、現代におけるその答えが、パーソナルカラーや骨格診断の人気や、メンズファッション初心者向け解説本の売れ行きだと思う。つまり、今は「服」そのものよりも、おしゃれの「ノウハウ」が人々の関心を集めている時代なのだ。

 

これに関しては、特に『ユニクロ9割で超速おしゃれ(著:大山旬)』の内容によく表れていると思う。この本の冒頭では、同じ人物で、同じ「ユニクロ9割」で、おしゃれに見える例とそうじゃない例を、写真で示している。つまり、ユニクロを着ていても、おしゃれに見える人とそうじゃない人がいるということを、印象付けているのだ。

 

また、大山氏は、流行は緩やかに変化していくから、古い服より今のユニクロを着ているほうが、おしゃれに見えると言う。

“3年前のボトムスを引きずり出してきて
履いていても、どんなに高かろうが、気に入っていようが
素敵には見えないんです。

それだったらユニクロで十分。
新しく新調することの方が近道です。”

3年前の高いボトムスよりも今年のユニクロの方が・・・ | 30代・40代のための「メンズファッションの教科書」| メンズファッションスタイリスト大山 旬

「3年前のボトムスよりも、今のユニクロ」と言えるようになったことが、「ユニクロでよくない?」になった大きな理由だと思う。一昔前の、品質はいいけれどデザインが垢抜けないユニクロでは、こんなことは言えなかっただろう。トレンドを押さえた形のものを出してくるようになったことで、ユニクロは、おしゃれな人の選択肢にも入るようになったのだ。

 

また、少ない服を着まわすというのは、確かに、「おしゃれ」より「くらし」を重視する「ミニマリスト」と言われる人たちのライフスタイルでもあるのだけれど、そもそもおしゃれな人にはそういう人が多いというのも、見逃せない理由だと思う。

個人の家に訪ねて行っておしゃれになる手伝いをしているスタイリストの人がよく言うことに、「皆さん、持ってる服が多いのに、使える服がすごく少ない」というのがある。

大山:僕はご自宅にクローゼット整理に伺うことが多いのですが、皆さん、ものすごく服をたくさん持っているんですよ。僕よりも大量に持っている方のほうが多い。

山本:私もまったく同じです! ご自宅でクローゼットを見せていただくと、服の数は皆さん本当に多いんです。でも「たくさん服はあるけど、明日着ていく服がない」とおっしゃる。それって、実はシンプルな服を持っていないからなんですよね。

多くの人が間違っている「服選び」 | ベストセラー対談 | ダイヤモンド・オンライン

 

スタイリスト歴30年で、50代以上向けのファッション本で人気の地曳いく子氏は、『50歳、おしゃれ元年。』の中で、「今までは毎日とっかえひっかえ着替えなければならないと思わされていた」ことを「昭和おしゃれルールの罠」と呼び、こう書いている。

出かける先や頻度は人によってそれぞれですが、出かけるたびに、毎回違うコーディネイトである必要はないですよね。

なのに、「同じ格好だと恥ずかしい」という固定観念に縛られて、無理に組み合わせてスタイリングのバリエーションを作ろうとする。

強引に昨日とは違うコーディネイトにしようとするから、必ず「イタい」組み合わせができてしまう。それが「罠」なんです。

 中途半端なコーディネイトを増やすより、自信のあるものを“ヘビーローテーション”で着る!だから、持つべき服は、登場頻度の高い“スタメン服”のみ!

これが、これからの50代のおしゃれの「王道ルール」なのです。

 つまり、ここでも、おしゃれになるためには、服を少なくして、毎日とっかえひっかえ着替えるのをやめるべきということなのだ。

 

おそらく、おしゃれが苦手な人ほど服をたくさん持っているのは、「迷走」しているからなのだろう。一方、おしゃれな人は、自分のワードローブを把握して、計画的に服を買っている人が多い。

つまり、おしゃれに興味がないから、服が少なくなるのではなく、おしゃれになった結果として、服が少なくなり、シンプルな服が多くなるのである。服を減らすのは、あくまでも、おしゃれになるための手段なのだ。

 

さて、色々言ってきたけれど、最終的に、私が思う「私たちがユニクロを選ぶ本当の理由」を言ってみようと思う。

 

お金がないから。

 

結局これだ。

「『若者の○○離れ』なんて言われてるけど、結局若者に金がないからだよ!」というのは、ネット上で散々言われてきたけれど、これと同じことだ。

 

ただ、過去記事『貧乏人の私がおしゃれになるためにしたこと』でも書いたのだけれど、私は、お金がない中でなんとかおしゃれがしたいと思って、同じ金額でもより自分に似合うものを選べるよう、プロのアドバイスを受けるなどして、おしゃれの知識を身に着ける方向に行った。このことは、単に服を買うよりも、私のおしゃれレベルを大きく上げることになった。

私は、その記事の中で、こういうことを書いた。

つまり、これらは、絵を上手く描けるようになったり、楽器を上手に演奏できるようになったりするのと、同じことなのだと思う。高いブランド物の服というのは、例えるなら、高い画材や高い楽器だ。もちろん、あると表現の幅は広がるけれど、それを使ったからといって、良い絵が描けるわけでも、良い演奏ができるわけでもない。良い表現とは、ひとえに、その人の技術力に左右されるものだ。

貧乏人の私がおしゃれになるためにしたこと - 宇野ゆうかの備忘録

そして、冒頭の記事を読んで思ったのだけれど……もしかしたら、不景気が続いて貧乏になっている今の日本は、全体的に私と同じ方向に行ったと言えるのかもしれない。つまり、安い服でもおしゃれに見せられる「ノウハウ」が求められるようになったのだ。 

 

80年代や90年代というのは、「おしゃれをしなければならないと思わされていた」ということと、「高い服を買わないとおしゃれができないと思わされていた」時代だったのではないだろうか。そして、それは実際そうだったのだろう。その頃の低価格帯の服といえば、おしゃれするのに使えないようなダサい服しかなかっただろうから、無理もないと思う。そして、そういう環境は、「高い服を買えばおしゃれになれる」という思い込みも形成していたのではないだろうか。

 

バブルが通り過ぎて、高い服を着てるからといって、おしゃれに見えるわけではないことが判明したこと。不景気が続いて所得が落ち込んでいること。ユニクロなどの低価格帯アパレル企業の台頭。ネットの普及により、おしゃれのノウハウを発信する人が増えたこと(それが書籍化されることもある)。スマホSNSの普及で、個人が自分の着こなしを発信するようになったこと。若者が参考にするおしゃれの情報が、雑誌からネットに移行したこと。

これらのことが重なって、今の時代のおしゃれに対する関心のありかたが形成されていると思う。

 

これは、人々が以前よりおしゃれに興味がなくなったわけではなく、むしろ成熟だと思う。おしゃれの基準が、「服」ではなく、個人の「技」になった――言うなれば、高い楽器を買う人は減ったが、実は、個人の演奏技術は底上げされているのではないだろうか。

だから、現代もおしゃれを頑張っている人は多いと思う。ただ、身の丈以上の消費はしなくなっただけで。もちろん、今でもファッションオタクな人たちはブランド品を買っているけれど、それは例えるなら、オタクが推しのグッズを買うようなものだろう。

そして、忘れてはならないのは、昔も今も、おしゃれに興味のない人はいるということだ。そういう人にとっては、ユニクロはまさに「救世主」だろう。

 

そもそも、バブル時代の女性たちが憧れたフランス人だって、そんなに毎日とっかえひっかえ着替えていないし、高いブランド物は富裕層のものだと思っているみたいだからね。

“日本では同じ服を1週間に2回着るのは、少し恥ずかしいと考えている人が一般的だと思います。まして3回着るなんて考えられないかもしれません。ところが、フランスでは当たり前のこと。なぜなら、みんながそうしているから恥ずかしさを感じないのですね。”

 

“自分の給料で手が届かないということは、自分に似合わないということ。似合わないものを無理に手に入れようとはしないのです。高級ブランド品で身を固めたり、ブランドバッグを持った人は滅多に目にしません。”

 

フランス人の「服装」が、日本とこんなに違うワケ(横川 由理) | マネー現代 | 講談社(1/3)

 


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ユニクロ9割で超速おしゃれ

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