宇野ゆうかの備忘録

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白髪を染めないのはマナー違反なのか?――髪色とドレスコード

www.huffingtonpost.jp

ある女性が、白髪染めをやめてグレイヘア・スタイルにしたことついて取り上げた記事を読んで、まだ白髪の生えていない私も、色々と思うことがあった。

記事の中では、大きく分けて2つの「常識」が出てくる。ひとつ目は「白髪を染めないのは失礼」という「常識」。もうひとつは「女の子はかわいくてきれいがいい」という「常識」だ。この記事では、とりあえず「白髪を染めないのは失礼」という「常識」について考えてみようと思う。

 

白髪育てを始めてから、いろんな反応がありました。染めるのをやめてからほどなく、「マナー違反だ」と知人から言われました。「なんで染めないの? 相手に失礼じゃないか」って。「なんで染めないの?(若いのに)もったいない」とも。これは、特に男性から言われましたね。

面と向かって言われて、世間の「常識」ってこうなのか、と改めて知りました。

 

年長者世代の女性たちの間には、「白髪は染めるもの」という同調圧力があるということを知ったのは、40代以上の女性たちのためのウェブサイトに寄稿させて頂いていた時だった。若者っぽくない若者としてブログを書いていた私に、お声がかかったのだ。

その中に、白髪のマッシュルームカットに、黒縁メガネ、赤い口紅というスタイルを確立している、とてもおしゃれな女性がいた。私はその女性にインタビューした記事や、彼女のブログを読んで、「テレビや女性誌は、若い女性たちに『女の子は、若くかわいくね!』というメッセージを放ってくるが、年配女性たちには『白髪を染めて、若くきれいになろう!』というメッセージを放ってくるのだろうか」と思った。*1

ちなみに、その女性は、後にInstagramで夫婦のペアコーデが注目され、本が出されることになった。

headlines.yahoo.co.jp

 

当時は、「そうなのかー。若い頃は若い頃で、年齢を経たら年齢を経たで、また違った同調圧力があるものなんだなー」程度に思ったものだったが、冒頭のリンク先の記事を見るに、白髪を取り巻く空気は、その程度のものではないのかもしれない。なんと、白髪を染めないのは「マナー違反だ」とまで言われるものらしい。

一応、服装のマナーについては、人並みに調べたことはあるものの、そんなマナーは聞いたことがなかった。お葬式には、あからさまな革や毛皮は「殺生」を連想させるからNGだとか、二連のネックレスは「悲しみが繰り返す」という意味に通じるから望ましくないということは知っていても、白髪がマナー違反とは。じゃあ、白髪の爺さん婆さんはマナー違反なのか?いつから白髪を染めるべき年齢と染めなくてもいい年齢に分かれるのだ?

 

 この記事を読んだ時、思い浮かんだのは、生まれつきの茶髪を黒く染めるよう、学校から強要されて、裁判を起こすことになった高校生の話だった。なぜ、自分の自然な髪色でいることが、マナー違反になるのだろうか。白髪を染めないのが「マナー違反」と言うのは、これと同じことだと思う。

元記事の女性は、グレイヘアを実践する前は茶色に染めているが、一昔前までは、白髪を染めずにいることよりも、茶髪にすることのほうが、ずっと「異端」であり「マナー違反」と見なされていたように思う。今や茶髪はすっかり市民権を得て、若者だけでなく、年長者女性たちにとっても普通になったが、髪を染めるのが普通になれば、今度は、「白髪なのに染めない」というのが、マナー違反になってしまったのだろうか。

 

一体、いつ頃から「白髪はマナー違反」になったのか……そう思って、「白髪染め 歴史」で検索してみたところ、日本においては、だいたいこのような経緯で、白髪染めが定着していったということのようだ。

  •  日本における最古の白髪染めの記録は、平安時代末期の武将・斎藤実盛が、戦に出陣する際に染めたというもの。
  • 江戸時代はお歯黒の成分で染めており、染めるのに10時間を要した。
  • 明治38年、日本で最初の酸化染料「志ら毛染君が代」発売。染める時間が2時間に。
  • 大正10年、水野甘苦堂(現 ホーユー)から「元録」発売。染める時間が30分に。
  • 昭和32年、日本独自の粉末一剤タイプ「パオン」「ビゲン」発売。昭和35年、業務用「パオンデラックスヘアーダイ」発売。昭和42年、シャンプー式ファッションヘアカラー「フェミニン」発売。

というわけで、長い歴史の中で、白髪染めの技術はあったものの、庶民レベルにまで普及したのは、昭和40年頃ということらしい。ということは、少なくともこの頃までは、白髪をそのまま染めずにいることは、普通のことであったと考えて良いだろう。*2

 

私は服飾専門家でもマナー専門家でもないが、はっきり言い切ってしまえば、冠婚葬祭のドレスコードに、髪の色は含まれない。髪の色は、あくまでも、その人が属している企業や学校などの組織との間の取り決めだ。推奨される髪色がある組織もあれば、自由な組織もある。

その好例が、天皇陛下主催の園遊会に出席した時のX JAPANYOSHIKIだ。彼は、髪型は茶髪に若干の長髪といういつものスタイルに、昼間の礼装であるモーニングコートを着ていた。どんな髪色でも、モーニングを着ていれば、立派な正装である。

髪の色がマナーに含まれると考えてしまうのは、学校生活の中で、長らく髪色について指導を受けた名残だろう。だが、それはあくまでも、その学校のローカルルールであって、学校から一歩外に出てしまえば関係ない。校則と一般社会におけるドレスコードは別物だ。学校は、葬式や結婚式に相応しい服装を教えているわけではないのだから。

 

たぶん、こんな同調圧力が生まれてしまうのは、実は多くの人が、染めたくて染めているわけではないからだと思う。自分が好きでやってる人は、他人に「良かったら、してみない?」くらいのことは言っても、押し付けたりはしない。でも、したくもないのにしている人は、他人に対して「私だって我慢してやってるのに、どうしてあなたは我慢しないの?」と、押し付ける傾向があると思う。

でも、世の中にはお堅い企業や官庁に勤めている人ばかりではなく、色んな職業や生活スタイルの人がいるのだから、「ドレスコードが関係してくるのは、服や靴や鞄やアクセサリーであって、髪色は関係ない」というのが、世の中の「常識」になっても良いだろう。

 

 

[2018.12.15 追記]

続きを書きました。

yuhka-uno.hatenablog.com