宇野ゆうかの備忘録

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「ダサピンク現象」から5年~『女の子は本当にピンクが好きなのか』より

 私が上のTweetをしたのが2013年のこと。この呟きは、2016年に堀越英美さんの著書『女の子は本当にピンクが好きなのか』の中で引用された。最初の呟きから5年経った今、もう一度、私がピンクについて考えたことをまとめておこうと思う。

女の子は本当にピンクが好きなのか (ele-king books)

女の子は本当にピンクが好きなのか (ele-king books)

 

 

私とピンク

まず、堀越氏は、冒頭のイントロダクションで「よもや自分の娘がピンク星人になってしまうとは。」と書いている。ジェンダーを意識せずに育てたつもりの娘さんが、3歳でピンク大好き人間になってしまったそうだ。

さて、私はというと、幼少期はばっちりピンク星人だった。私はあまり服の選択肢を持たせてもらえなかったが、それでも、ピンクでフリフリの服が好きだったし、お姫様に憧れていたし、魔法少女のアイテムを模した玩具を欲しがる、ジェンダー的にはごく平凡な女の子だった。(もっとも、ゴレンジャー的なものや、格闘ゲームも好きな女の子でもあったけど。)

そして、小学校高学年ともなると、ピンクやフリフリを恥ずかしがるようになった。これは、単に成長過程でそうなったという理由の他に、時代の影響もあると思う。当時、女の子たちに人気があったのは、安室奈美恵のようなかっこいいタイプの女性で、おしゃれや流行に敏感な女の子ほど、「ピンクでフリフリなんて、ダサい」と思っていた。

 

その後の私は、わりと毒要素のある母からの「おしゃれや流行に興味のない子でいてほしい(金がかかるから)」という抑圧を受けていたこともあり、およそピンクなどのカラフルな色ではなく、どちらかといえば地味な色味の服を身に付けていた。

母親の毒から抜け出すためにカウンセリングを受け、「私、本当はおしゃれしたかった!」と気づいて、パーソナルカラー診断を受けてみると、結果はサマータイプ。最もピンクが似合う(正確に言うと、似合うピンクの色味の幅が広い)タイプだった。

それからの私のワードローブには、白やネイビーやグレーなどのベーシックな色に加えて、ピンクも混ざるようになっていった。口紅はもともとピンク系を使用していたけれど、パーソナルカラーのアドバイスを受けて、私の頬と唇は、より鮮やかなピンク色になった。

 

4年前、自分のブログで『残念な女性向け商品が作られてしまう「ダサピンク現象」について』という記事を書いた時は、一部の、どうしても理解したくない男の人たちが、私のことを「どうせ、ピンクが嫌いな女なんだろう」と言っていたが、笑ってしまう。私は、ピンクが似合う女なのだから。*1ただし、フリフリやかわいい系は、あまり似合わないけれど。

 

ちなみに、ダサピンク現象関連で、「子供がピンクのフリフリばかり欲しがるんだけど、どうなんだろう」みたいなことを言っている人も見かけたけれど、私の考えとしては、「ピンクだろうがブルーだろうが、お姫様だろうがゴレンジャーだろうが、その子の欲しがるものを与えてあげればいいじゃない」である。「自分で選べる」ということは、自己肯定感に繋がると思う。

 

パーソナルカラーとピンク

さて、パーソナルカラーの話題が出たところで、ピンクとパーソナルカラーの関係について考察してみようと思う。

ちなみに、パーソナルカラーとは、その人その人に似合う色の傾向を診断する理論で、一概に「あなたは赤が似合う。あなたには青は似合わない」というものではなく、ピンクならどういうピンクが似合うのか、青みがかったピンクなのか黄みがかったピンクなのか、淡いピンクか鮮やかなピンクなのかということを見極めるものだ。(詳しくは検索してみて下さい。)

 

『女の子は本当にピンクが好きなのか』の中でも引用されているジェーン・スー氏の「ピンクと和解せよ」の中に、こんな文がある。

子供の頃からずっと、私はピンクが大の苦手でした。

ギリギリ許せて、サーモンピンク。

サーモンピンクには奥ゆかしさがあるからな。

しかし『正当派』な女の子は、往々にしてピンク好きが多い。

そして私は、ピンクと気負いなく戯れる彼女たちを見ると、

なぜか胸が潰れそうな気持ちになっていた。

ジェーン・スーは日本人です。: Vol.19 ピンクと和解せよ

 これは2014年に書かれた文章なのだけれど、ジェーン・スー氏は、後にこんなTweetをしている。

 この口紅の色味が似合うのであれば、ジェーン・スーさんは、パーソナルカラー・オータムである可能性が高いんじゃないだろうか。

 

そして、堀越英美氏も、著書の中で、ピンクに対する拒否感を語っている。

 同僚にはキラキラ女子が多かったが、私は保護色を身につけてできるかぎりネイチャーと同化したいタイプだった。ある日、同じチームの同僚が私の誕生会を開いてくれた。同僚たちが用意したプレゼントは、目の覚めるような青みピンクのタンクトップ。サーモンピンクやベビーピンクのような逃げ場のない、本格的なピンクである。肩にはピンクのリボンまでついている。「いつも地味な服ばかり着ているから、たまにはかわいい服を着たほうがいいよ」。無理!

堀越さんは、結局この服を着て、「成人の儀式でバンジージャンプを飛んだかのような祝福を受けた」そうだ。

その後、自分の服や持ち物に、なんとかピンクを取り入れて慣れようとしてみたものの、「ピンクの服は、いずれもタンスの中にしまわれたままアースカラーに埋もれていった」とのこと。

 

私は、「保護色」「アースカラー」という言葉が気になった。そして「サーモンピンクやベビーピンクのような逃げ場のない、本格的なピンクである」という言葉も。

もしアースカラーやサーモンピンクの色が似合うとしたら、堀越氏も、パーソナルカラー・オータムなのかもしれない。

 

パーソナルカラー・サマーが、最も似合うピンクの幅が広いタイプなら、オータムは、最も似合うピンクの幅が狭いタイプだ。そして、サーモンピンクは、オータムタイプの人に似合うピンクの代表例である。

おそらく、オータムタイプの人は、他のタイプよりも、ピンクに対する拒否感・苦手感を感じてしまう人が多いのではないだろうか。

もし堀越氏がオータムタイプであったなら、同僚からプレゼントされた「目の覚めるような青みピンクのタンクトップ」は、確かに似合わなかっただろう。

 

 この章の最後に、堀越氏は言う。

そもそもなぜ、私はそんな努力をしようとしているのだろう。黄緑や蛍光オレンジが嫌いだからといって、こんな苦行をする人はいないはずなのに。

雨宮まみ氏は、『女の子は本当にピンクが好きなのか』の感想に寄せて、

私は、自分は大人になってからピンクという色に対する抵抗を克服した、と思っていた。けれど、なぜ克服しなければいけなかったのだろう。克服しなければ、と思わせられたのはなぜだったのだろう。

「女の子は本当にピンクが好きなのか」 #06

 と言っている。

 

これは、私もそう思う。パーソナルカラー・サマーの私は、ピンクの選択肢は多いが、黄緑やオレンジが苦手なので、あえてそういう色の服を着ようとは思わない。沢山ある黄緑やオレンジの服の中から、何とか自分に合うものを探そうとか、着こなせるようにならないととか、そういうことも思わない。苦手だからやめとこ、以上、である。

なぜピンクは、これができない空気に満ちているのだろうか。苦手ならあえて着なくてもいい、というふうにできないのだろうか。その人が魅力的に見える色なんて、人それぞれなのに。

 

ロックとピンク

スピッツ草野マサムネ氏が、『女の子は本当にピンクが好きなのか』を、ファンクラブ通信の中で紹介していたらしい。草野氏は、「曇り空がパーッと晴れるような内容だった」と感想を述べ、当時発表した淡いピンクのアルバム『醒めない』に絡めて、「アラフィフ男バンドがピンクのアルバムで子グマとかモニャモニャとか歌ってるって、愚かで良くないっすか?」「ロックは自由だ!!」と言っていた。

醒めない(通常盤)

醒めない(通常盤)

 

 

私はロックには詳しくないが、ロックの精神性の起源は反体制であるはずだ。ならば、「男はこう」「女はこう」とか、「男は外で仕事、女は家で家事育児」みたいなのは、モロに家父長制という体制側であるわけで、それに逆らってみるのは、反体制として非常に「ロック」なのではないだろうか。

ジョン・レノンだって、オノ・ヨーコと結婚してから、ヨーコが働いて、ジョンが息子の世話をして料理を作るという、主夫生活を送っていた。そして『Woman is the Nigger of the World(女は世界の奴隷か!)』という歌を作っている。しっかり反体制だ。

 

私は前々から、ロックな人が「女子供は黙ってろ!」みたいな振る舞いをするのは、めちゃくちゃ体制側だし、全然ロックじゃないんじゃない?と思っていた。むしろ、男がピンクでかわいいってことのほうが、ロックだと思う。

 

ミレニアル世代とピンク

2016年頃から、ミレニアル世代(1980~2000年前後生まれ)で好まれるピンク色として「ミレニアルピンク」が流行している。欧米から始まって、徐々に日本でも見られるようになった。インスタグラムで「#Millennialpink」を検索してみると、それこそ様々な「イケピンク」が見られる。

ミレニアルピンクの特徴は、全体的に淡い色合いのピンクであるということと、ジェンダーレスな色だと認識されていることだろう。50年代アメリカで流行色だったピンクは、女性らしさを表す色だったが、現代流行のピンクは、全ての性の人が着る色として意識されている。

もしかしたら、そろそろ「ピンク=女の子の色」という固定概念は、古いものになっていくのかもしれない。

 

ジャネル・モネイ 『PYNK』


Janelle Monáe - PYNK [Official Video]

*1:もっと笑ってしまったのは、当時、私と一緒にダサピンク現象について話していた女性たちのことを、繰り返し「バ……素敵な女性たち」と言って、「男性をバカにするためだけに作られた用語」という結論を出したがっていた人が、私よりかなり年上のジ……男性だったこと。